インバル氏とのマーラー、終わりました


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横浜みなとみらいと東京文化会館での、東京都響マーラー・ツィクルス第一回、エリアフ・インバル氏との演奏会が無事に終わりました。足を運んで下さった皆さん、ありがとうございました。
 
マーラー・スペシャリストとして知られるエリアフ・インバル氏との共演はたまらなくエキサイティングでした。インバル氏は結構稽古や本番の度にちょっとしたところを変えて音楽を進めていきます。ライブ感がとてもある演奏会になったと思います。休憩後の交響曲一番は二回とも客席で聞かせて頂いたのですが、本当に素晴らしい演奏で、涙が出ました。この1楽章、2楽章は「ドイツの森」そのものですね。そこに民族音楽の響きが加わって終楽章では一気にカタルシスを迎える。本当にすごい音楽だし、指揮のインバル氏の素晴らしさに加えて、東京都響の皆さんの渾身の演奏、最高でした。技術の高さだけではなくて、音楽性、情熱、連帯感、芸術への帰依を強く感じました。東京都響の皆さん、素晴らしい演奏を本当にありがとうございました。
 

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同じオーケストラで同じ曲目を歌う、というのは特別な感慨があるものですね。僕はこの同じプログラム(さすらう若人の歌、交響曲第一番)の東京都交響楽団との演奏会に12年前にも出演させて頂いています。しかも今回と同様、マーラー・ツィクルス第一回としての演奏会でした。指揮は当時都響の音楽監督だったガリー・ベルティーニ氏でした。ベルリンの留学時代にベルティーニ氏のオーディションを受けるためにハンブルクまで列車に揺られて行った覚えがあります。
今日の演奏会のあと、楽屋口でサインを求められた方の中に何人も、その12年前のコンサートも聴いて下さった方がいらして、なかにはその時の僕がしたサインを持参されてその同じページに今日のサインを、と言って下さった方もいました。何だか感激しました。
 
というのも、その12年前の演奏会が僕にとってある意味特別だったからです。みなとみらいでの12年前の演奏会の日の朝に、長男の健登が生まれました。僕は朝に出産に立ち会ってすぐに横浜に向かって歌ったのです。
 
この12年間・・・正確には12年と5か月・・・に本当に色々な事がありました。僕は12年前のマーラーの演奏会の3か月後にゲラの劇場での活動に入り、そして今回の演奏会の2か月前に劇場の契約を打ち切ったわけです。そして当然のことながら息子は12歳になり、再来月には僕らは17年のドイツ生活を切り上げて日本に帰国します。
僕はこの17年のドイツ生活をGesellenzeit(修業時代)に喩えることが良くあるのですが、このさすらう若人の歌は原題が「Lieder eines fahrenden Gesellen」で、Gesellenというのは若者という意味だけでなく、あちこちで修行して回る徒弟のことも指します。
 
これからは日本を拠点にして、更に精進して参りたいと思います。11月から年内の演奏会は、山形、大阪、名古屋と首都圏以外のものが続くのですが、東京では2005年から続けている「小森輝彦・服部容子デュオ・リサイタル」が12月20日にあります。
8回目となる今回はシューベルトの歌曲「美しき水車小屋の娘」を取り上げます。これも今回のマーラー同様「Geselle」(徒弟)がテーマです。マイスター(親方)になるべく修行の旅をしている若者がある水車小屋で娘に恋をし、失恋して自殺するまでの物語です。この二つの「徒弟物語」をドイツ生活を切り上げるこの年に歌えるというのは、僕にとって特別な意味があります。
東京文化会館小ホールで19時開演です。まだ詳しい情報をこのホームページにも掲載できていませんが、追ってお知らせいたします。e+(eプラス)では9月27日からチケットを発売開始します。主催のセンターヴィレッジ(03-5367-8345)では9月25日からチケットのご予約が可能です。
 
素敵なドイツ語の響きを豊穣なオーケストラの響きに乗せて客席に届ける、と言う事が今日の演奏会ほど楽しかったことはありませんでした。じっと集中して聴いて下さっている客席の皆さんの眼差しにもとても励まされました。これからも、こういう充実した演奏会をどんどん歌っていきたいです。