Richard Strauss Intermezzo

インテルメッツォ ロベルト役
「Haettest du lieber ordentliche Erkundigungen eingezogen…あれれ、まただ」と、
もう自分の本番が終わって3日経っているのに、気が付くとインテルメッツォのクリスティーネとの喧嘩の場面をまた口ずさんでいます。「こんな犬も食わない夫婦喧嘩をテーマにしちゃって」と思うこともあったんだけど、気が付くとその喧嘩を一番楽しんだのは、この僕なのでした。



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きちんと時間をさかのぼってみて、自分でもびっくりしたんだけど、僕はこのオペラの楽譜を15年前に買っているんですね。まさか歌うことになるとは思わずに。
音楽雑誌「カンパネラ」のインタビューでもお話ししたのですが、1989年のミュンヘン国立オペラの来日公演で、R.シュトラウスの「アラベッラ」が日本初演されました。僕はこのオペラに心を奪われました。そしてこのR.シュトラウスという作曲家の他の作品を探したら、グラインドボーン音楽祭の公演ビデオでこの「インテルメッツォ」があり、これを見てまた感激。
そしてまた偶然に、河合楽器青山店をのぞいたら、アラベッラとインテルメッツォのピアノスコアが並んでいたのです。学生のころに1冊15000円以上もするR.シュトラウスのピアノスコアを二つ、しかも歌う予定がないものを買うというのは、やっぱりどうかしていたとも思いますが、とにかく買いました。そして「いつか歌ってやるぞ・・・」と思っていたわけです。それが15年前。
「アラベッラ」のマンドリカ役の方は、昨年の2月に新国立劇場のプロダクションで歌わせて頂き、夢が叶いました。幸せでした。そして、このマンドリカ役、スコアの設定によれば「年齢は35歳」とある。そして僕はマンドリカを歌った去年の2月はまだ35歳でした。これも嬉しい偶然でした。
驚いたのは今回です。広瀬大介さんというR.シュトラウスを特に深く研究なさっている方が、インテルメッツォの公演プログラムにお書きになった文章。
インテルメッツォの筋書きについては日記を参照して頂きたいのですが、このストーリーは実話によっています。R.シュトラウスがありもしない不倫の疑惑をもたれて妻パウリーネは離婚を迫ったのですね。この騒動の発端になったミーツェ・ミュッケという女性は、シュトランスキーという指揮者とR.シュトラウスを取り違えて手紙を送ったそうですが、この手紙を受け取ったときのR.シュトラウスは37歳だったそうです。そして僕は今37歳。
この偶然には、変な話かもしれませんが感動してしまいました。繰り返しになりますが、R.シュトラウスは僕にとって最愛のオペラ作曲家です。そのR.シュトラウスのオペラ作品の中でも特に僕が愛情を持って10年以上もスコアを抱いていた「アラベッラ」と「インテルメッツォ」。両方の夢の役を設定と同じ年齢で歌うチャンスを与えられたのです。僕がR.シュトラウスを愛している様に、R.シュトラウスも僕を愛してくれているんじゃないだろうか、と結構本気で思いました。神様に感謝!です。
これからもずっとR.シュトラウスの作品を歌い続けていきたいです。

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僕が歌ったロベルトという役は、妻役のクリスティーネに比べれば決して出番が多くありません。2幕はかなり存在感が大きくなるけど、やはり主役はクリスティーネです。今回、僕の相手をして下さったのは田島茂代さん。大学時代から知っている仲間で、オペラでの共演は東京室内歌劇場の「秘密の結婚」、新国立劇場・二期会共催の「ナクソス島のアリアドネ」に続いて3回目ですが、このクリスティーネという役はとにかく出番が多いし、しゃべり通しだし、大変そうだなぁなんて思っていた(着替えだけでも9回あるんですよね。開演中は楽屋に戻る時間は全くなかったと思いますよ。)んだけど、見事なクリスティーネを演じてくれました。素晴らしかったです。前から魅力的だと思っていたけど、今回のクリスティーネを見て惚れ直しました。
とても充実したホームページもお持ちです。興味がある方はごらんになって下さい。
そして、クリスティーネがロベルトの不在中に仲良くなるルンマー男爵は、経種廉彦さんでした。原田先生門下の先輩で、本当に頻繁にご一緒させて頂いています。なんだか僕にとってはいろいろ悩みも効いて下さる「兄貴分」みたいな方なんです。舞台では2幕の最後に一度すれ違うくらいで、演技のからみはなかったのですが、経種さんが稽古場にいて下さるだけで、僕はすごく安心します。実際に、通し稽古でアドバイスをお願いしたら、僕が一番困っている箇所をすぐに指摘して下さって、パーフェクトな解決策を示して下さったんです。
今回は、同じ組の中に原田先生の門下生が多かったです。経種さんと僕以外に、アンナの宮部小牧さん、商業顧問官の石崎秀和さん。お二人とも若いのに立派な舞台を努めて下さった。同門の人が4人も一つの組に集まるなんて、初めてです。
僕は今まで、稽古場の中で一番若い歌手、という事が多かったんですが、今回見回してみると、僕より若い人がたくさんいて、なんだか時間というのはきちんと過ぎていくんだなぁと思ってしまいました。
エッセイで共演の方のことを書くことは今まであまり無かったのにどうして書きたくなったのかと言いますと、今回、舞台を努めて「やっぱり劇場というのは素晴らしいものだな」と思ったのです。こんな夫婦喧嘩を題材にしたオペラをみんなで一生懸命やって、そして、お客様がとても楽しんで下さったことが今回すごく伝わってきたんですね。オーケストラの皆さんもカーテンコールですごくにこやかにみんなで拍手して下さっていた。これは普通のことではないと思います。
そして、これは、やっぱり「チーム」で頑張ってきたからなんですね。作品の性格もありますが、今回は参加したみんなが「チーム」になっていたと思う。そして誰もが舞台を務めることをエンジョイしていたと思う。
僕は、2幕の最後の素晴らしく叙情的な二重唱をのぞくと、喧嘩して怒っている部分がほとんどなんだけど、その美しい二重唱だけでなく、喧嘩も存分にエンジョイしました。だからなかなか抜けなくてね。いまだに口をついて出てきてしまうわけです。
こういうチームとして一致団結して頑張って、しかも成果が上がった舞台というのは、その後がきついです。本番がたった一回だったという事もあるけど、「もうあの舞台はないんだ」という喪失感はとても大きくて、なんだか知らない場所に一人で置いてきぼりにされてしまった子供の様な気持ちになっています。
(2004.7.22)

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