Der Zauberer von Oss

オズの魔法使い
ゲラの劇場で、さる11月16日にミュージカル「オズの魔法使い」の新演出のプレミエがありました。
先シーズンまでうちの劇場の専属バリトン歌手で、今シーズン、つまり今年の8月からケムニッツの劇場に移ったマティアス・ヴィンターがこのオズの魔法使いで演出を担当しました。


彼はうちの劇場の専属歌手でいるうちから、コンサートのステージングをはじめとして色々演出家的な仕事をし始めていまして、今回はゲラで演出家デビューと言うことになりました。ちなみにリゴレットではマルッロを歌っています。先シーズンのミュージカル演目はマイ・フェア・レディだったのですが、そこではヒギンス博士を演じて絶賛を浴びています。
彼は大きな長毛の犬を飼っているのですが、その犬の名前がヒギンスで、彼がミュージカル好きであることがうかがわれます。その犬のヒギンスはビールが大好きで、マティアスのうちに遊びに行ったときは、マティアスと一緒に美味しそうにビールを飲んでいましたっけ。
まぁヒギンスのことは良いとして、オズです。
僕はゲネプロを見に行くつもりでいたのですが、あいにく本番が入ってしまって、一日前のハウプトプローベを見に出かけました。
いやぁ、これは素晴らしかった。とても感動しました。
この作品は、ご存じの方も多いと思いますが、知性、心、勇気がキーワードになります。これはまさに我々劇場人が舞台に立つときに絶対に必要なものたちです。
知性を求めるかかしはリゴレットでボルサを歌っているギュンター・マルクヴァルト、心を求めるブリキ男を演じるのはリゴレットではスパラフチレ、ドン・ジョヴァンニでは騎士長を歌うフーゴー・ヴィーク、勇気を求めるライオンはリゴレットではモンテローネ、ドン・ジョヴァンニではマゼットを歌うベルンハルト・ヘンシュが歌いました。
3人とも僕の同僚で、経験が長い人ばかりです。この3人の中で一番若いベルンハルトもゲラの劇場に勤めて16年目になるわけなので、すごいベテランばかりです。僕はこの人達の、オペラ歌いとしての知性、心と勇気、そしてとりわけ「子供らしさ」に心を打たれました。
特にブリキ男を演じるフーゴー。彼は大のリート好きで、音楽的にもとても成熟した人です。僕がドン・ジョヴァンニをやったときは彼の演じる騎士長との決闘シーンがありました。彼はBuehnenfechten(舞台フェンシング、でしょうか)の心得があるので、決闘の剣さばきの段取りから、一つ一つの動きや呼吸のこつを教えてくれました。この劇場であらゆるバスのレパートリーを20年以上に渡って歌ってきたわけです。
そんな彼が、全身全霊を注いでブリキ男を演じているのは素晴らしいことだと思いました。
誤解のないように書いておくと、僕はミュージカルとオペラの間にジャンルとしての優劣はないと考えています。両方とも総合芸術とよばれる舞台作品であると言って良いと思いますが、構成する各構成要素のバランスがかなり違います。僕自身はオペラ歌手であるわけですが、ミュージカルは大好きだし、客として見に行った場合は泣かされてしまう確率はミュージカルの方がずっと高いです。ロンドンでライオンキングを見たときは本当に上演開始後数分でもう泣いていましたね。いやいや、まぁあれはちょっと極端な例だけど。
まさにこのポイントにおいて、僕は本当にミュージカルをやっている人たちはすごいと思います。オペラだと、上演全体がうまく行かなかった場合に「今日は主役の××さんの調子が悪かったから」で済まされてしまう事がままあるように思うのですが、ミュージカルの公演では本当にお客さんを完全に楽しませることが徹底して行われているように思うのです。プロフェッショナルだなぁといつも感心というか感服してしまうのです。
一つは商業ベースにのって、興行的に淘汰されてしまうことがあるでしょうし、ロング・ランが出来ることで、お客様の期待するものをより正確に知る事が出来ると言うこともあるでしょうが、それだけではないと思います。
とはいえ、クラシックをやっている歌手でミュージカルを軽く見ている人がいるのも事実です。特にこういう「着ぐるみ」タイプの演目だと、大雑把に演じられることがより多いように思います。歌だけでなく、芝居が通り一遍というか、パターンだけで演じられるというようなことです。
でもオズを歌っていた歌手達は「ミュージカルだからこんなもんだ」という風にはやっていませんでした。まさに舞台人としての知性、感情、勇気をそそぎ込んでいたのです。
こういうメルヘンを見に来るのはもちろん子供が多いのですが、やはり子供相手に手を抜いてはいかんと僕は思っています。子供の方がずっと反応が正直で怖いという人もいるくらいです。大人も感動できるメルヘンがこういう劇場で日常的に上演される事は素晴らしいことですが、たやすいことではありません。
僕はこの「オズの魔法使い」を見ることが出来るゲラの子供達を本当にうらやましく思いました。
(2001.11.21)

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