さて、今日はGPです。祝祭大劇場に初めて足を踏み入れます。
この写真の窓にあるポスターのマークが、ザルツブルク音楽祭のトレードマークですね。この写真はチケット・ビューローです。向かいの建物には「ヘルベルト・カラヤン広場」という住所の札が見えます。
そしてその先を右に曲がると、いよいよ祝祭大劇場の正面。天気が良くて、向こうに見えるザルツブルグ城もきれいですね。
そして、いよいよ舞台へ。
ここで、世界のトップ歌手たちがしのぎを削ってきた、いや、削っていると思うと、なんだかすごいところに来ちゃったなぁ、という感じもします。ちなみに僕らの本番の次の日はトーマス・ハンプソンがタイトル・ロールを歌うドン・ジョヴァンニです。僕らの本番の日の夜も、超スピードで飾り換えて、魔笛です。すごいよね。
客席数は正確に知りませんが、東京の大きなホールになれている我々にとっては、空間としてはそれほど大きく感じられません。サイトの写真で見たときは、あまりホールの感じに魅力を感じなかったんだけど、実際に足を踏み入れるとやっぱりそこには「空気」のようなものがあって、何か圧倒されるような気持ちになりました。ここで歌ってきた歴代の名歌手達とそれを聴いてきた音楽ファンの皆さんの残した「気」のようなものなんでしょうか。
歌手がオーケストラの後ろに立つという話もあったようですが、最終的には歌手がオーケストラの前に立てることになって、良かったです。後ろのスクリーンには、オペラの進行に応じて照明で色を変えていきます。このために、この日の朝5時から演出家の高島勲さんが仕込みをして準備してくださっていました。高島さんとは秋の日生劇場のオペラでご一緒するわけですが、その前にここで一緒にお仕事させていただくことになりました。
大変なのは、これをGPのあとに一度ばらして、明日の本番の朝にもう一度組み直さなくてはいけないことです。今日のGPのあとには別のプログラムが組まれているので、舞台全体を組み直すわけです。GPと本番の間に他の催しが入るなんて、普通の劇場ではあり得ないことです。ザルツブルク音楽祭ならではですね。
僕の歌う首領の役は、他のギャング(これはドイツ語での記述でそうなっているのですが)3人とは違って、ソロ部分がかなりあるので、僕としては登役の高橋淳さんの横で歌いたかったんだけど、トリノの練習でアンサンブルを合わせることを重視していて声部順に並んで練習しちゃったら「本番だけ順番を入れ替えたら、あてにしている音程が聞こえないから無理だ!」とカウンターテノールのZvi君に猛反対されて断念。
Zvi君は今回のキャストで唯一の非アジア人。イスラエルの人で、演出家ハリー・クプファーの奥様の弟子です。マエストロ・アルブレヒトがハリー・クプファーに「だれかドラマティックなカウンターを紹介してくれ」といって彼の名前が出たそうです。
2月だったかな、アルブレヒト氏の家に行ったとき、僕のあとに来ていました。彼はもちろん日本語が読めないので、誰か読みを教えてくれる人を紹介してくれと頼まれて、ベルリンにいる現代音楽を専門にしているハイパー・ソプラノ(はは。誰でしょう)を紹介しました。
僕らギャング達は、舞台上手側のコントラバスの前あたりに椅子を置いて座っていて、歌うところになって譜面台のあるセンターに行く、というやり方だったのですが、かなり厳密にこのタイミングを合わせないと、音楽を邪魔しても行けないし、なかなかこの作業、たいへんでした。一応楽屋で決めてから行ったんだけど、写真ではまだ相談してますね・・・。
自分たちが歌っていないところもずっと拍を数えて追っていないとどこだかすぐわからなくなるんですよ。変拍子が多い上に、はっきりいってピアノ・スコアは余り良い出来とはいえず、楽譜を見て音楽を追っていくのが大変難しい。そのうえ、日本語版をあとから作ったので、手書きで自分のパートの日本語歌詞を書き入れている状態で、他の役の歌詞は入っていない。
GPには、作曲したヘンツェ氏も来ていました。体調が悪いという話で、本番を聴いてもらえるかどうかわからないという話だったので、GPまできてくれるなんて感激です。一緒に写真も撮っちゃいました。
挨拶したときに、日曜日、つまり本番の翌日のランチに誘われたのですが、残念ながら僕は本番の日の夜のフライトでゲラに戻らなくちゃ行けない・・・うーん。残念。もしフライトが変更できたらうかがいますとお答えしました。もっと早く言ってくれれば良かったのにー。
GPは、僕としては通して欲しかったんですが、よくマエストロ・アルブレヒトとお仕事されているバリトンの三原さんの「いやー、多分GPも止めて直すと思いますよ」と言う言葉通り、何度も止めて直しをしていました。
でも、本番会場の練習としては大変実りのある練習だったと思います。ヘンツェ氏もご満悦で、終了後にマイクを持って挨拶されていました。「あなた達の、私の作品に対する芸術的努力に、深い感銘を受けました」と言っていました。オケがイタリアのオケなので、イタリア語での挨拶でしたね。
マエストロ・アルブレヒトもそうだけど、3カ国語をきちんと使いこなしていて、すごいと思いますねー。トリノの稽古でちょっとトラブルっぽくなったときもちゃんとイタリア語で怒ってたもんなぁ。外国語で怒りをちゃんと伝えられるって、すごいと思います。
外に出たら、相変わらず良いお天気で、ばりばり仕事したのでおなかもすいてきた。すぐ近くにあるザルツブルクでは有名なレストラン、ザンクト・ペーターでみんなで昼ご飯食べました。シュニッツェルとかも頼んだんですが、このレストランの名物料理「Tafelspitze」というのがおいしかった。牛肉をスープでゆでてあるんですけどね。本当においしいです。このレストランに行かれる方がいらしたら是非食べてみてください。
日曜日のヘンツェ氏を囲んでのランチもこのレストランなんですよね。ヘンツェ氏御用達。
この写真は、そのレストランの名物デザート「Salzburger Nockerl」。Nockerlというのはこの地方の方言で「お団子」という意味らしいけど、団子には見えないね。メレンゲを焼いてあるような感じですけど、それにラズベリーのソースを付けて食べるようです。おいしかったですよ。でもちょっと僕には甘すぎた。
さぁ明日はいよいよ本番。部屋に早めに帰って休みます。部屋の窓からもトンネルのある岩の壁が見えます。こういう風景をみると、南ドイツ、オーストリアに来ているなぁという実感が湧きますね。