うちのコンマスはロンドンのフィルハーモニア管弦楽団へ


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うちの劇場オーケストラのコンサートマスター、ツォルト=ティハメール・ヴィゾンタイ君は弱冠24歳ですが、先シーズンからコンサートマスターとしてうちのオーケストラを引っ張っています。彼がオーディションを受けたときの様子を聞いたんですが、うちのオーケストラの投票で満場一致だったことはそれまで一度もなかったとか。それで既になんだかすごいんだけど、その彼は実は来シーズンから、ロンドンのメジャーオーケストラ、フィルハーモニア管弦楽団のコンサートマスターに就任します。大ステップアップですね。
その彼のAbschiedskonzert(お別れのコンサート)がありました。


我が劇場のオーケストラは13年前に二つの劇場が合併された関係で、劇場のサイズに比べるとかなり規模の大きいオーケストラです。二つのオーケストラが一つになったのですが、その後、他の部門では進んでいったリストラがオーケストラではあまり進まずに、大きな規模を維持しています。
特に強い労働組合のこともあり、またオーケストラが小さくなると劇場のランキングをオーケストラの規模で計る習慣があることもあり、経営側も簡単に規模縮小をするわけにはいかないように思われます。
 
劇場に見合わない規模のオーケストラを持つことは、経営陣にとっては大きな財政的負担となります(オーケストラ奏者のギャラは劇場の労働者の中で一番高いと思う)が、逆にこの劇場にもたらす恩恵ももちろんあります。
マーラーの交響曲やワーグナーの作品など、大規模の作品を取り上げることが出来ますし、これを目当てに良い指揮者がこの劇場の指揮者のポストを希望してオーディションに来ると言うこともあるようです。前音楽総監督のフェルツ氏との豊かな共同作業は、劇場の音楽家みなの心に深く刻まれているようですが、彼もここで経験を積んだあと、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団の総音楽監督に就任して、ここを去っていきました。
 
多分コンサートマスターにも、こういう事があるんじゃないか、と思ったりします。僕がこの劇場に来たときのコンサートマスターは僕と同い年のアレキサンダー・バルタというドイツ人だったけど、ヴィースバーデンの劇場オーケストラのコンサートマスターになりました。当時は日本人の上岡さんが音楽総監督をされていたと思います。
このZsolt-Tihamér Visontayツォルト=ティハメール・ヴィゾンタイ君(劇場HPの彼のプロフィールはこちら)もそう言うところがあったんじゃないだろうか。ヴァイマールの音楽大学を卒業してそのままうちのコンサートマスターになりましたが、その就任時のオーディションで既に語りぐさになってます。それ以前にEUYO(EUのヤング・オーケストラ)にもコンサートマスターとして参加し、バレンボイム、コリン・ディヴィス、アシュケーナージ、ガーディナー、ハイティンクなどなど大指揮者の元で弾いているようです。すごいですよね。
 
たった2年だったけど、その前何年か空席になっていたうちのオケのコンサートマスターに就任して、素晴らしい働きをしてくれたと思います。このお別れコンサートもすごい盛況で、その彼の働きを物語っているんじゃないだろうか。
フランク、ブラームス、R.シュトラウスのソナタを披露してくれましたが、どれも素晴らしい演奏でした。僕はこれほどヴァイオリンの音が人間の声のように響くのを聞いたことがないです。素晴らしかった。
でも、彼の強みはソロ奏者としてはもちろんだけど、オーケストラのリーダーとしての部分にもあるようです。フィルハーモニア管弦楽団のコンマス就任のニュースのページをみてそう思いました。
 
実は僕、去年の年末にワルキューレの稽古のために日本に帰って、毎年年末にやっているNHKの、その年の音楽シーンを振り返る番組を見ていたんです。そうしたら、7月のフィルハーモニア管弦楽団のマーラーの演奏をかなりの時間を取って放送していた。指揮はエリアフ・インバル氏。マーラーのスペシャリストですね。
「ああフィルハーモニア管弦楽団といえば、ツォルトが行くオケじゃないか」と思ってよく見てみたら、どうもコンマスの席に彼が座っているように見える。いや、彼の契約は2008年の夏からのはずだがなぁと考えてみたら、当たり前ですが、採用の前に試用期間があったわけです。知人がコンマスを弾いてると思ったからもあるのか、えらくこの演奏には感動してしまいました。
2月にワルキューレが終わってゲラに戻り、本人に聞いてみたらやっぱりそうだったみたいです。あのツアーは全部一緒に回ったらしい。日本の聴衆のマナーの良さに感じ入っていました。「あんなに静かだったら、ホールで縫い針が床に落ちた音でも聞こえるね、きっと」といってましたよ。
 

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彼は両親がハンガリー人だけど、旧東ドイツ生まれです。前述のガブリエル・フェルツ(彼に関するエッセイはこちら)もそうだけど、旧東ドイツからこういうスターがでると、なんだか嬉しいです。スポーツの世界で言ったら、やっぱりミヒャエル・バラックですかね。この間のオーストリア戦のフリーキックは本当にすごかった。弾丸キックって感じでしたね。テレビでサッカー見るのはものすごく久しぶりだったけど、ちょうどこのツォルト=ティハメールのお別れコンサートが終わって帰ってきたら前半の終わりくらいでした。バラックはちなみに、ゲラから70kmくらいのケムニッツ出身です。あ、彼もロンドンで活躍してるんだよね。この二人は共通点があるな。

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