2011年4月25日にゲラ市立歌劇場のコンサートホールで行われた、東日本大震災チャリティーコンサートは大成功に終わりました。
100人程度の来場を予想して、コンサートホールフォワイエでの開催を予定していたのですが、早々に200枚のチケットが前売りで売れてしまい、急遽場所を800人収容のコンサートホールに変更しました。
コンサート当日は、400人以上のお客様がつめかけて下さり、当日券売り場には長蛇の列が出来ていたとのことです。
東テューリンゲン新聞の予告記事などの助けもあり、予想を遙かに上回る多くの方が来て下さいました。善意を行動で表して下さった皆さんに、心から感謝したいと思います。
当然のことですが、この東日本大震災のニュース自体がドイツでも大きく報道されてもともと関心が高かったことに加え、宮廷歌手の称号授与のニュースも同時期にあったので、新聞だけでなくラジオ、テレビでもこのコンサートのことが大きく取り上げられました。
劇場側は、無償でこの美しいコンサートホールを提供してくれただけでなく、チラシのデザインと印刷も引き受けてくれ、さらにコンサートの際のスタッフも手配してくれました。また慈善事業を主催できない劇場に代わってゲラ市の劇場後援会がその役目を買って出てくれ、チケットの管理なども引き受けてくれました。当日は用意していたチケットを上回る来場者のため、手書きでのチケットを100枚近く発行してくれたとのことでした。
善意のモチベーションが集まった開場の雰囲気は極めてポジティブなものでした。またオペラ好きの聴衆にとってこの二人の歌手はおなじみの顔ぶれで、しかもイタリアオペラの名曲のプログラムで、大変盛り上がりました。
歌手は二人とも本調子ではなく、喉の不調を押しての舞台でしたが、客席の盛り上がりが伝播して演奏にも自然に力が入りました。
二重唱とアリアを立て続けに歌うプログラムの中で、ピアニストの長崎さんは蝶々夫人と椿姫から間奏曲を披露して、これも満場の聴衆から大喝采を浴びていました。
ゲラとアルテンブルクに住む8人の日本人が計画を進めてきたわけですが、女性たちはこの日着物を着て募金箱の横に立ち、寄付を呼びかけました。
また、フォワイエには朝日新聞社と仙台フィルハーモニー管弦楽団が提供してくださった写真を展示し、劇場レストランのスツェナリオが販売した飲み物の収益金の半分を寄付してくれるなど、休憩中もチャリティーの企画が注目を集めました。
最終的には、入場料収入の4080ユーロ以外にも多くの寄付が集まりました。アルテンブルク市の劇場後援会が行った、青少年弁論大会の発表ガラをチャリティー企画として実施した上に寄付を呼びかけてくれ、これが800ユーロの収益になりました。またゲラ市市役所職員組合から735ユーロが寄付されました。
休憩と終演後の募金箱への寄付も1000ユーロを超え、合計金額は約8300ユーロとなりました!
コンサートのプログラムは「珠玉のオペラ(Perlen aus Opern)」というタイトルで、ヴェルディとプッチーニのオペラから有名なアリアと二重唱を集めました。リカルドとは今まで「トスカ」「オテロ」「マノン・レスコー」「ナクソス島のアリアドネ」などで共演しています。何を歌っても彼とならば息がばっちり合うという自信がありましたが、初めて一緒にやる曲も多かったにも関わらず実際にとても息があって、細かいことに気を取られず、音楽に没頭することが出来ました。
アンコールは4曲歌ったのですが、一曲目ビゼーの「真珠取り」からの二重唱は初めて歌いました。本当に天国的な美しさを持った音楽ですね。これだけ息が合い、また多分声質も相性がよいのだと思いますが、リカルドとこの二重唱を歌っているとき、歌いながらにしてそのハーモニーの美しさがホールに広がっていくのを楽しむことが出来ました。こんな体験は初めてでした。
この二重唱も二人が友情を誓い合うものですが、プログラムの最後に置いた「ドン・カルロ」からの有名な二重唱も同様に二人が友情を確かめ合って力強く歌いきる二重唱です。これをプログラムの最後に置くことはもう最初から決めていました。音楽も素晴らしいけれど、今回のチャリティーコンサートの一つのテーマは、震災の危機とそれに立ち向かう協力から生まれる、新しい友情だと思っています。こんなドイツの片田舎(失礼!)でこれだけの人たちが日本のことを思い、その思いを行動であらわしてくださったのです。失われたものがあまりに大きく、その大きさに我々は打ちひしがれがちですが、こうして生まれた新たな友情に僕は希望を見いだしたいと思っています。
その想いが伝わったのだと思います。この二重唱のあとは客席全員が立ち上がるスタンディングオベーションとなりました。そして、四曲のアンコールは曲ごとにスタンディングオベーションです。こんなの見たことありません。びっくりです。特にリカルドの「トゥーランドット」からの「誰も寝てはならぬ」の後は本当にすごい拍手とブラボーで、その後に歌った最後のアンコールである美空ひばりさんの「川の流れのように」の為に「すいません、もう一曲あります!」とマイクを取って皆さんに座ってもらわなくてはいけませんでした。
この「川の流れのように」はリカルドの強いリクエストによるもので、僕は忘れていたんですが、三大テノールのコンサートでも歌われたんでしたね。リカルドの日本語デビューとなりましたが、もともと作曲、ポップ畑の出身である長崎さんも本領発揮で、さりげなくおしゃれなピアノで最高の見せ場を作ってくれました。
この日の挨拶でも述べましたが、チャリティー企画は今後も続けていくつもりです。震災からの復興には長い時間がかかります。どうか長い目でこの復興を見ていただきたいとお願いしました。とりあえずはアルテンブルク市でチャリティーの歌曲コンサートを行う予定です。
劇場に勤めて31年のチェリストの同僚が「この劇場で体験したコンサートの中で最高 だった」と言ってくれたのですが、客席の善意が演奏会の空気を別の次元に引き上げてくれたのだ思います。その後も色々な人に会うたびにこのコンサートのことで感謝され、こちらが感謝したい気持ちなのに、こんな風にみんなに喜んでもらえたことが、本当に、本当に嬉しかったです。
前のエッセイにも少し書いた「瓦礫の上にこそ劇場を」という話ですが、仙台フィルハーモニー管弦楽団の「音楽による復興センター事業」は僕らのこの想いを体現してくださっています。心からのエールを送ると共に、義援金をこの事業に送ることで、少しでも力になれたらと思っています。
関連リンク:
チャリティーコンサートの報告記事(東テューリンゲン新聞)
チャリティーコンサートの詳細記事
東日本大震災チャリティーコンサート
東日本大震災で考えること・・・一人の在独邦人として(エッセイ)
宮廷歌手、称号授与関連の記事
ドイツ宮廷歌手の称号を授与されました