いよいよドイツに入りました。半年続けて日本にいたのは留学して以来初めてのことでした。
まずは懐かしのベルリンへ。
ベルリンのテーゲル空港には、骨折を心配して友人達が迎えに来てくれていました。やはり声楽家で現代音楽を専門とするソプラノの森川栄子さんと、音楽学の博士論文を執筆中の小岩信治さん、その婚約者でやはり音楽学の木村恭子さんと、小岩君の「ベルリンでの両親」であるところのエーベル夫妻。
エーベル夫妻のメルツェセデス(メルセデスというとドイツ人に怒られる)で、宿泊する別の知人宅までドア・トゥー・ドアで大変助かりました。それどころか、重い荷物...
(結局60kg以上)を3階まであげてもらってしまったのです。本当に友人のありがたさというものをひしひしと感じさせてくれるこの「骨折体験」です。
そう、僕は骨折しています。鎖骨なので、そうひどいことではないらしいのですが、僕にとっては初めての体験。しかも出発の3日前に折ってしまったので、心細いことこの上なし・・・。
今回の東京での最後の本番であった「カルメン」の舞台上で折ったのでした。3幕で登場する瞬間、見張りのドン・ホセに発砲されて地面を転がりながら出てくるのですが、その転がりの受け身の取り方を失敗したらしい。もうあまりの痛さに良く覚えていませんが。
折ったのは左の鎖骨です。次の日医者に行ってわかったことは、手を横の方向に挙げるのが何よりいけない、という事。
でも僕はこの2重唱の始まりのところでどうしても左手を横に挙げなければいけなかったのです・・・。もちろんその時点では手を横に挙げることがいけないという事はおろか、骨折していること自体知らなかったわけですが、尋常でない痛みから「出来ることならこの左手、あげたくないなぁ」とは思いました。
今考えると、転んで怪我をしたという芝居にして、右手でやれば良かったのだろうか、とも思えますが。その時はそんなことを思いつく余裕はなかった。なんとか2重唱をうたって決闘シーンも演じて、その左手でドン・ホセの顎をつかんで挑発する芝居も予定通りにやって、袖へ退場。「痛い痛い」と言いながらも、まぁせいぜい捻挫とか脱臼だろうと思い込んでいたのです。
というのは、このカルメンの通し稽古で、決闘のシーンで、右手の親指付け根をひどく痛めて、もう医者に通っていたのですが、すごく痛かったのに骨には異常がなかった。で、これもまぁそんなところだろうと。甘かったです。
本番というのは怖いなと思いました。これはこういう僕の油断というか、甘さに対する警告だったような気がしています。
いや、カルメンのことでなくて、ベルリンのことでした。
ルフトハンザの機内で、ドイツのニュースをやっていましたが、極右に対する政府の取り締まり強化のニュースが目立ちました。いわゆるネオナチですね。これは外国人にとっては非常に身につまされる問題です。ユダヤ人ばかりが標的ではありませんから。これについても気をつけなくては、と思いました。
楽しみにしていた機内の映画はメインが「リプリー」。これは日本語の吹き替えで見ました。ローマの風景は懐かしかったなぁ。ちょうど去年の今はローマに初めて行っていたのです。で、もう一つがギャラクシークエスト(だったかな)とかいう、SF風の映画。なんだか面白くなさそうだと思っていたのですが、最初だけ眺めていると主演がティム・アレン!じゃあ見ようと言うことになり、ドイツ語吹き替えで見ました。ちょっと英語だときついので。英語もそれくらい出来るようになりたいんですけど。どうやら普通のSF映画ではないようでした。長寿SF番組の出演俳優達が、他には大した仕事がなく、その番組をあつかった地方のスーパーの開店イベントのアトラクションなどの仕事ばかりしていると、そこにその番組を「戦闘記録」と勘違いしている宇宙人が、助けを求めて来るというお話。僕はティム・アレンが大好きなので結構楽しみました。
それはともかくベルリンに到着。
生涯で初めての一人暮らしがついに始まりました。どうなる事やら。
2000年8月9日(水)スクリプトで読み込み