J. Brahms “Liebeslieder Walzer”

ブラームス作曲「愛の歌〜ワルツ集〜」
日本でそれほど知名度が高いとはいえないと思いますが、ヨーロッパのドイツ歌曲を愛する人たちにとっては結構スタンダードなナンバーといえるかと思います。


お堅いイメージが先行するブラームスの作曲した「ワルツ集」ですから、これはまず「おや?」と僕は思いました。18曲すべてがワルツで書かれているのです。しかもタイトルは「愛の歌」。
しかしなんとその18曲の変化に富んでいることか!僕が好んで聴いた録音は、エディト・マティス、ブリギッテ・ファスベンダー、ペーター・シュライヤー、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの4人の歌い手にヴォルフガング・サヴァリッシュとカール・エンゲルがピアノという贅沢な顔ぶれのものでした。
一人一人がリート歌手としての表現を確立している人で、もちろん超一流だし、何よりも「個性的」な四人なので、そういう4人が4重唱をやると、単なる4重唱にはならないんですね。それにもちろんサヴァリッシュのピアノは雄弁だし、カール・エンゲルも負けていません。6人の「バトル」なんです、これが。
ちなみに僕はリートピアニストとしてのサヴァリッシュが大好きです。もちろん指揮者としても素晴らしいんですけど。ピアノを弾いているときの方が個人的な感じがするというか、より表現がアクティヴであるように思います。ヘルマン・プライと一緒に出しているR.シュトラウスの歌曲の録音はまさに絶品です。
そしてカール・エンゲルというのは、やはりヘルマン・プライの「詩人の恋」のピアニストとして、僕の最初の「すごいリート体験」をさせてくれた人です。高校生の時にこの録音を聴いたんだっけな。

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話をもどしますが、そんなわけでこの録音は一応連弾と4重唱という体裁は保っているものの、ほとんどソロリートを4人が歌っているという感じの4つの個性のぶつかり合いなんですが、それでいて調和ももちろんあるわけです。僕はすっかりこの録音に魅せられてしまいました。
 
僕が初めてこの「愛の歌」を演奏したのは、大学院を出て間もない頃でした。当時仲間と一緒にやっていた「オペラプロジェクト カンタンティ・コミチ」というグループの特別演奏会として企画しました。学生の時の仲間とやっていたこのグループについては、色々と書きたいこと、書くべき事があるのですが、これはまた次の機会に。
とにかくこのコミチでやった「愛の歌」では、約1年間かけて準備をして、納得が行くまで稽古しました。
 
それ以来初めての「愛の歌」をここゲラで歌いました。
日記でも書いたとおりですが、友人のメゾ・ソプラノ石井真紀さんのピンチ・ヒッターというおまけつき。本来歌うはずだったメゾ・ソプラノがギャラの交渉でもめてキャンセルし、責任者が困っていたのですが、そのとき我が家にはソプラノの森川栄子さんとメゾ・ソプラノの石井真紀さんが年末年始をゆっくり過ごすために訪ねてきてくれていたので、「今ちょうどうちにこの曲を歌ったことのあるメゾ・ソプラノがいるけど・・・」といってみたらトントン拍子に話が進んで、石井真紀ちゃんのゲラ・デビューと言うことになりました。
 
前回の自分の演奏を録音で聴いて振り返ってみると、全てのナンバーがえらいゆっくり歌われていることにまず気付きました。当時と今の自分の演奏スタイルやらセンスの違いもあるでしょう。でも日本人の方が叙情的なものを好むという事も理由の一つでしょうね。僕ら二人以外は今回当然ドイツ人で、わりとさっさかさっさか行きます。コミチでやったときのテンポはちょっとゆっくりすぎたけど、今回のテンポはちょっと速すぎたかなぁ。「たっぷり歌う」という事をあまりドイツ人は好まないのかも知れない。
普段の演奏の現場でいつも痛感するのは、ドイツ人(あるいは欧米人全般かも知れない)のもっているフレーズ感の長さです。声楽技術がえらくつたない初心者でもどういう訳かフレーズは長い。これはとても不思議です。音楽上のトレーニングよりも民族性、気質などから来るんだと僕は思っていますが。
で。フレーズを長く歌えるからテンポを速くしても逆に大きな流れの中の叙情性みたいなものは保たれるのかも知れない。
それにしてもやはりドナウの流れはもっとゆったりして欲しかったし、もっと詩を読んで欲しかったですね。特にピアニストに。とはいえ、こういう経験もドイツ人の音楽センスを探る上で、僕にとっては非常に有意義な経験になります。
石井さんとは今まで共演の機会がなくて、今回共演できたのは非常に嬉しかったです。次はきっちり稽古してやりたいですね。なかなか時間をとるのが難しいんですが。
(2002.1.20)

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