O.Nicolai Die lustige Weiber von Windsor

(ウィンザーの陽気な女房達) フルート氏役
このオペラはそれほど有名なオペラとはいえないと思います。台詞を挟んで進行するもので、僕が歌ったのは日本語ででした。1995年11月の藤沢市民オペラです。このときのアンナ役は、今や超有名な佐藤美枝子さん。僕の奥さんの役のフルート夫人は針生美智子さん。それぞれがこの年の春に行われた藤沢オペラコンクールの第三位と第一位だったのです。ちなみに僕は第二位でこのオペラにキャスティングされました。藤沢市民オペラというのは僕にとって特別な場所ですが、これについては他で書いているので割愛。


僕が演じたフルート氏は、裕福で仕事にも成功している名士なのに、嫉妬深いのが玉に瑕。奥さんが老騎士ファルスタッフ(そう、このオペラの原作はシェークスピアで、ヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」と同じ原作です)と恋に落ちていると信じ込み、はちゃめちゃになってしまいます。この二面性が面白いのです。僕は稽古していく中で、この嫉妬心を押さえきれない彼の一面を身体的な癖に置き換えていくことを思いついて、これはなかなかうまく言ったと思います。GPまでずっとずっと新しいことを試していて、演出の栗山昌良先生もその度に細かなダメ出しをして下さいました。
特にフルート氏がバッハ氏という架空の人物に変装してファルスタッフを訪ねていくくだりは、芝居的に非常にこみ入ったシーンでした。音楽的には特に複雑なシーンではないのですが、芝居的にはシチュエーションが複雑なのです。フルート氏はバッハ氏に変装していて、そこでファルスタッフに自分が惚れ込んでいるフルート夫人を拐かして欲しいと頼むのです。お金を払ってまで。理由は、如何に身の固い人妻でも一度ファルスタッフに誘惑されてしまえばその後口説くのは簡単だという良くわからない理由で。で、ファルスタッフは気をよくして引き受けるのですが、その「商談」の中でフルート氏は、ファルスタッフから、「実は自分はもう今日の3時にフルート夫人とデートの約束をしてある」ときいて仰天するわけです。この「仰天する」はフルート氏の本来のリアクションであり、でもバッハ氏としてのリアクションもファルスタッフには見せねばならないし、でもお客様にその両方が見えないと劇中劇として機能しないし。そう、劇中劇というのは難しいですね。ここでは劇である「ウィンザーの陽気な女房達」の中にフルート氏がバッハ氏を演じる「劇」が演じられているわけです。劇の二重構造です。
僕は色々なことを、どうも理詰めで考え(すぎ)る癖があるので、このシーンを頭の中できっちり整理して演じるのはかなり労力がいりました。やはり喜劇はむずかしい。人を泣かせるのよりは笑わせる方が難しいです。

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