昨日、一昨日は、この「ニーベルングの指輪」抜粋コンサート(クリックすると情報ページにジャンプします)のゲラでの本番でした。今日の夜は舞台をアルテンブルクに移します。
いやぁやっぱりワーグナーというのはすごいです。美しい音楽だけど、それだけじゃない。僕も以前に比べるとこの「ニーベルングの指輪」という大作のことがわかっているから、という前提がありますが、ライト・モチーフ(示導動機と良く訳されますね)が聴き手に喚起するものが、その音楽の美しさと相まって感動を呼ぶ...
のですね。
このプログラムの中で僕が歌っているのは、主神ヴォータンの歌う「ヴォータンの別れ」。ヴォータンが身を切る思いで最愛の娘ブリュンヒルデの神性(神通力とか書いた方がわかりやすいかな)を取り去り、彼女から別れを告げる感動的なシーンです。
何度か書いたかと思いますが、やはりこのヴォータンという役、僕の声にはいささか重すぎます。いわゆるヘルデン・バリトン、バス・バリトンの役柄ですからね。僕の声はもうちょっと高くて明るいカヴァリエ・バリトンという分類になるのです。
しかしながら、僕の愛するヴァーグナーの音楽。しかも指揮はGMDのガブリエル・フェルツ。素晴らしいコンサートになるのは間違いない。少し迷いはしましたが、結局引き受けました。もっともガブリエルの提案で、僕の声で行けるかどうか、確認のために一度コンサートホールで歌ってみて試すということはしたんだけどね。
やっぱりやって良かった。この役が歌えるとは今でも思わないけど、このコンサートの中で「ヴォータンの別れ」を歌うという限られた役割の中では責任を果たせたと思います。昨日も一昨日もたくさんブラボーもらいました。
特に昨日は、同僚が多く来ていて、そのうちの何人かが終演後に感激したと僕のところに来てくれました。オケの人なんかは特に、こう言うときにはお世辞を言わないから、誉められると嬉しいですわね。
ドイツ人の指揮者とドイツのオーケストラで、このヴァーグナーの音楽を、しかも全「ニーベルングの指輪」のハイライトとも言えるこの「ヴォータンの別れ」を歌って、こう称賛を受けるということがどういう事か、と考えると、けっこう僕自身感激してしまうところはあります。
けっこう多くのドイツ人が「この『ヴォータンの別れ』が全『ニーベルングの指輪』の中で一番感動的なシーンだ!」と言いますね。僕も同感。
それにしても、指揮のガブリエル。彼は本当にすごい。オーケストラが舞台にのっているコンサート形式だから、どうしても歌声にかぶりがちになるんだけど、稽古の中で折に触れてきちんと音量を落としてくれて、ちゃんと歌声がオケに殺されないようになっている。それでいて、音楽が細くならないんです。痩せない。
そしてこの上なく明晰な指揮振りと指示。本番の舞台で何があってもいつも微笑んで、他の音楽家に安心感を与えつつ即座に冷静に対処する。そして彼は今31歳なんですよね・・・。信じられないですよ。彼とこのコンサートを一緒に出来たのは本当に良かった。
ちなみに彼、このヴォータンの別れは暗譜で振っておりました。僕も暗譜で歌ったけどさ。
一昨日のコンサートの時にもらった花束を楽屋に忘れてきてしまったので、昨日は二つ花束を持ち帰りました。それでね、よく見ると、花束に球根が入ってるんですよ。嫁さんと「へぇーこんなことするのか」と驚いてしまった。確かに今は庭いじりを始める季節だから、そう言う意味ではすぐに枯れてしまう花束でなくて更に未来につながるという意味で良いかも知れませんね。写真の左側の花束がそうです。
さて、今日はアルテンブルクでヴォータンだ。今日で終わりだから頑張ろう。
でもさ、日曜日にオランダ人の本番、月曜は午前中と夜にこのヴァーグナーコンサートのオケ合わせ、その間にフィガロの立ち稽古。火曜は朝と夜にフィガロの立ち稽古で、午後にはヴァーグナーコンサートのゲネプロ。(しかも夜のフィガロはアルテンブルクで立ち稽古だった)
一昨日は午前中に4時間ばっちりフィガロの稽古で夜は、ヴァーグナーの本番。昨日はまたアルテンブルクでフィガロの稽古をして夜はヴァーグナーの本番。今日はこれからまたフィガロの立ち稽古に行って夜はアルテンブルクでヴァーグナーコンサート最後の本番。
明日の土曜は、土曜なのにフィガロが遅れているから午前だけでなく夜も稽古が入る・・・。
どういうことでしょうね。このスケジュール。僕は「稽古から外してくれ」といったんだけど、フィガロの稽古は大変遅れていて、もう伯爵無しでは稽古が進まないのもわかっているので、あまり押せないなぁと思っていた。
しかも我らがオペラディレクターは、この殺人的スケジュールのあとの日曜にアルテンブルクで「テアター・フリューシュトゥック」という、新演出プロダクションの紹介イベントがあるんだけど、そこで僕を歌わせるつもりだったらしい・・・。何考えとんのか。
そして僕は一昨日のフィガロの稽古中に気持ち悪くなってそれ以来余り物を食べていないのです。昨日の朝起きたときに、自分がすごーく疲れていることを強く認識してもう我慢できなくなり、ディレクターに「日曜のイベントから外してくれなかったら、僕、来週病気になるよ!」といったら外してもらえた。
結局、自分でとことん主張しないとわかってもらえないんだよね。
さて、またゲラは雪です。日本のニュースサイトで「早くも夏日」とあるのを見て、落差に驚いております。
2004年3月12日(金)スクリプトで読み込み