今日と昨日、「フィガロの結婚」の本番でした。昨日は「気管の炎症があるが、不調をおして歌う」というアナウンスを入れてもらいましたが、オペラ・ディレクターと相談して、いろいろ考えたんだけど、結局今日はアナウンスはしませんでした。
昨日の本番では、2幕の出番の直前、本当に舞台に出る5秒くらい前に我慢できずに咳払いをしてしまい、声帯をこすってしまった。そうしたら、2幕はもう声ががさがさ・・・。
咳や咳払いで声帯をだめにするケースがあることはよくわかっていたけど、これほどはっきりとその危険を思い知らされたのは初めてです。1幕はいつも通りの声で歌えたいただけに残念。客席で見ていた...
演出助手があわてて「3幕のアリア歌う?カットする?」と聞いてきましたが、僕としてはどういう事情でこうなったか、割とはっきりわかっていたので、「何とか歌えると思う」と答え、休憩中に吸入したり、もう一度丁寧に発声したりして持ち直しました。3幕はまだぎりぎりという感じだったけど、4幕はまたいつもの声に戻っていた。
あとはとにかく、水分を取ること。写真はこの日僕が飲んだ水。全部で5.1リットル。これを約3時間の間に飲んでしまったわけです。
昨日の2幕での不調もあり、オペラ・ディレクターがその公演中に、今日の公演のための代役に関してもう交渉を始めていました。芝居が複雑だからそれまでやってもらうのは無理なので、僕が芝居だけして袖で他の人が歌うというパターンね。でも僕が、「自分で歌います」と宣言して、この話もなくなった。
宣言したのはいいけど、やっぱり体調は戻っていなくて。でも、とにかく昨日の咳払いのことは肝に銘じて、ひたすら我慢我慢でした。
結果的には何とか事故はなく、不調だったと思った人はいないと思います。気管の炎症というのは、僕の場合は、風邪による不調と言ったらまずこれ、と言うくらい頻繁にある症状で、逆に言うと、風邪を引いたりしても声帯が腫れたり、鼻の方が炎症して歌えない、という事はまずないのです。いっつもこの気管の炎症に悩まされる。
で、この場合は、声帯は腫れていないことがおおいので、咳が出たり咳払いをしたりして、声帯を傷つけない限りは、演奏に影響が出ないのです。だから、「不調と言っているけど、全然不調じゃないじゃないか」となりやすい。つまり本人の思い過ごし、あるいは神経質になりすぎてると思われやすい。でも昨日の2幕のように、危険はいつもそこにある。むずかしいです。
で、今日。何とか集中力で乗り越えてカーテンコールになったら、スザンナ役のアンケ・ベルントが「Teru、もう終わったから言うけど、今日お客さんが来てるわよ」という。誰かと思ったら、世界的な活躍をしているソプラノの天○さんじゃあないですか・・・。わざわざゲラまで聞きに来てくれたのはうれしいけど、何でこんな不調の時に・・・。そういえばアンケは仲が良いんだって言ってたっけ。たまたまアンケのところに来ていたらしい。
そういえばね、楽屋入りするときに、日本人らしき女性の後ろ姿をみたのです。で、今日聞きに来る可能性がある他の人のことをちょっと考えていたんだけど、まさかね・・・。
でも、彼女も不調とは全然わからなかったとのこと。とても褒めてもらいました。思えば、僕にとって4つ目の「フィガロの結婚」のプロダクションだった、文化庁オペラ研修所の公演では、彼女は助演でバルバリーナ(!)を歌ってくれていたんだっけ。「もう8つ目のプロダクションだからね」と言ったら、「もう伯爵という役が体に入っているから、何をやっても全部表現になっている」と言ってもらいました。これは嬉しかったですね。
時間がないみたいだったんだけど、劇場から2分という地の利(?)を生かして、窓越しにだけど健登にもご対面してもらいました。「うまく混ざってるねー」というのは笑った。
2004年6月6日(日)スクリプトで読み込み