今日の「ナブッコ」の本番は、結果的に演奏会形式になってしまいました。
アビガイッレを歌っているルツィア・ザルジュツカが病気のためですが、歌手が病気になると、ピンチヒッターの歌手を探して、その人に何とかこの演出を憶えてもらって上演するのが普通です。実際に一昨年のクリスマス休日のナブッコは、フェネーナのイローナ・シュトライトベルガーが病気で、ヴュルツブルクからピンチヒッターを呼んで切り抜けました。
我々の場合の問題の一つは、ナブッコをドイツ語で上演・・・というか、今のうちの方針は全てドイツ語上演・・・しているので、ドイツ語でその役を歌った歌手を捜さなくてはならず、これはオリジナルのイタリア語で歌った人を探すより数倍難しい。それでいてこの日程でゲラに来てもらえる人を探すとなるとこれは大変。
そして、うちでナブッコのメンバー誰かが病気で抜けると、まず頼りにするのが近隣都市のツヴィッカウ。この劇場でも数年前にナブッコをドイツ語で上演していたので、この劇場にはドイツ語でナブッコを歌った人たちがいることがわかっているわけです。
実際に、今までにこのツヴィッカウのザッカリア、イズマエーレに出動願ったケースがあります・・・こう考えると、結構みんな病気してるんだなー。
今回もツヴィッカウでアビガイッレを歌った人に頼んだのですが、いかんせん数年前のプロダクションで、この人は急に暗譜では歌えないそうなのです。それで仕方なく演奏会形式。
でもね。実はルツィアは約1週間前から病気で歌えない可能性を劇場側に伝えていたのです。こういう事は今回が初めてじゃないんだけど、対応が遅すぎると思う。
その1週間を使って、ツヴィッカウのアビガイッレ・・・シューベルトさんというソプラノですが・・・に何とか暗譜してもらって演技してもらうことは十分可能だったはずです。そのころから、シューベルトさんが袖で歌ってルツィアが演技だけする、というやり方は浮上していたんだけど、これは僕はあんまり好きじゃないですね。緊急の時は仕方ないけど。
どうして、1週間無駄に待ってしまったかというと、結局ルツィアが回復すればそれで丸く収まるから、そう希望しつつ1週間待ってしまったのです。これは大変ばからしい。もちろん、ルツィアが回復した場合、結果からすればそれで正しかったという事になるし、そういうことは今までにもあった。ある程度の不調をおしてルツィアが歌ったこともありましたしね。
それでも保険はかけておくべきだった。・・・お金と労力をケチろうとして、結局ケチれず、芸術的な妥協(演奏会形式になったこと)も強いられた、最悪のパターンでした。
一つ理解するのは、演出家でオペラ・ディレクターのブリューアー教授は、ルツィアのアビガイッレの芝居がとても気に入っていたので、多分彼女がせめて芝居をしてくれる可能性を残したかったんでしょうね。
でもね、ピンチヒッターを頼まれる方も、直前まで保留されるのはきついですよね。僕も前にマグデブルクの「フィガロの結婚」にピンチヒッターを依頼されたんだけど、当日の朝に「やっぱり本人が歌うと言うから来なくて良いです」という電話をもらって、気持ち的にも物理的にも準備万端だった僕はかなりがっくり来ました。これ、前に日記に書きましたね。
ところでこのシューベルトさん、なかなかドラマティックで、それでいてなめらかな美声でした。急だったこともあり、きつそうなところもあったけど、とても良いアビガイッレだったと思う。
名前からしてドイツ人だと思いこんでいたけど話をしてみると、何だか英語なまりっぽいドイツ語で「?」と思っていたら、やっぱりアメリカ人だって。アメリカ人でもシューベルトって言う名前はありですもんね。
実は僕、この日失敗をしてしまいました。前日のブリューアー教授の説明では演奏会形式にはしない、そうするくらいなら公演中止だ!という事だったので、そう思いこんでいたら、劇場に着いてみてびっくり。つまりは僕は持ってくるべきコンサート用の服装を用意してこなかったんですよ。
なぜ連絡がなかったんだ?!と思ったら、うちの留守番電話にメッセージが入っていた。
うちの電話、話し中の時はテレコムの留守番電話が作動するように設定してあって、これは毎日メッセージが入っていないか聞くようにしているんだけど、もちろん3時間ごとに聞く、という事はしていない。しかもこの日は一度しか電話を使っていなくて、それも5分の通話。まさかその5分に電話がかかってきたとは思わなかった。緊急時には携帯にかけ直して下さいとメッセージをいれてあったんだけど、それはしてもらえなかった様子。がっくり。
で、その入っていたメッセージにも、それを僕が聞かなかったことを想定していたのか『最悪の場合はナブッコの衣装もスーツなのでそれを着用して下さい」とあった。で、着てみたんだけど、皮スーツでね、かっこいい衣装ではあるもののやっぱりコンサート衣装の中では浮く。実はイズマエーレのマティアスはイズマエーレの衣装をそのまま着てネクタイしているんだけど、まったくコンサート衣装にしか見えない。ずるい。
僕はこの日、プライベート出来ていた服がグレーのタートルネックで、ジーンズ。そしてお気に入りのラルフ・ローレンのコート。このコートの襟がタキシードみたいな感じになっているので、スタッフが「そのプライベートの格好の方が良いよ」と言いだして、さんざん話し合った結果、プライベートの服で歌うことにしました。ジーンズでナブッコですよ。とほほ。
公演中に「あなたのところに服装のこと、連絡が行かなかったんだって?どういう事だ!」と、制作スタッフの方に怒りの矛先が向いているので、「いやいや、そうじゃなくてですね・・・。公演終わったら話しますから」と言うことで公演後に説明して謝りました。僕を責めるつもりは彼にはなかったようだけど。家に帰って、すぐにこの話し中にこの留守番電話が作動しないように切り替えました。