劇場では今週はオーディションばっかり

どうも今週は練習が少ない様子なので、何かと思ったら毎日毎日オーディションなんですね。考えてみたら、まぁ当たり前だ。この夏から劇場の首脳陣が総入れ替えになり、インテンダントも演出家のマティアス・オルダーグ氏にかわります。音楽監督のエリック・ソレーン氏はそのままだけど、彼の場合は一年早く入ったという感じで、2005年から2010年までの契約だと思うので、この二人が自分の時代に劇場で使う歌手を、今探しているわけです。


前にちょっと書いたかもしれないけど、オルダーグ氏の時代になる事で、うちの劇場のソリストもけっこう入れ替わります。幸いにして僕の契約は無事延長されたけど、結局6人やめるんじゃないかな。残る人の方が少ないくらいだ。男声では僕以外に、もう終身雇用契約になっているギュンターとベルンハルト、女声はゲルリンデとニコル、カテリーンか。残るのも6人だね。でもゲルリンデは今は育児休暇中だ。

今回はけっこう遠慮なしに大鉈が振るわれた感じがします。
なぜなら、解雇されたうちの二人は、すでに終身雇用契約になっていたからです。クビには出来ないはずなんですよね。でも、解雇はせずに他の職種につくように要請して、受け入れられないならばやめてください、というやり方ですね。うーむ。こわい。
今週、そのやめる6人の穴を埋める歌手を選ぶためのオーディションががんがん行われているわけです。月曜なんか8時間とかやっていたみたい。何十人も来たようです。1週間で何百人、という歌手がオーディションを受けに来るわけですね。
 
懐かしいといえば懐かしいです。僕もそうしてオーディションを受けてこの劇場に採用されたわけで、もう6年前になるわけですが、そのときのことははっきり憶えています。このシーズンに仕事が見つからなかったら東京に引き上げる覚悟で、ベルリンの荷物をまとめながら、オーディションの旅を繰り返していました。ある日など、オーストリアのインスブルックで夕方にオーディションがあって、その日のうちにミュンヘンまで電車で、ミュンヘンから飛行機でハンブルクへ飛び、宿泊。早朝に飛び出して午前中のリューベックのオーディションを受けた、なんてこともありましたね・・・。ありゃきつかった。
 
きつかったって、何がきつかったかというと、カラダもですが、気持ち的にきついんですよね。「日本に引き揚げなくちゃいけないかも」という圧力が常にある中でのオーディションだったし、その上オーディションというのは、決して楽しいものではありませんから。楽しいどころか、かなり嫌なものです。
ヨーロッパの方がそういう傾向が強いように思うけど、つまり、我々歌手は「モノ扱い」されるのですね。品定めですから。人間性とかそういうんじゃなくて、まずは声、極論すれば「声帯」の品定め。もちろん歌い手としての音楽性とか表現力は問われるんですが、まぁ僕の認識では、まずは声帯の「モノ」としての品定めです。
だから、オーディションはよく通るんだけど舞台ではあまり期待された結果を出さない「オーディション受けの良い歌手」と、オーディションではそれほどはっきりと受けが良くなくても、オペラのプロダクションでは良い仕事をする歌手というのが分かれちゃうんですよね。僕は全然オーディション得意じゃなくて、やっぱり演技や音楽、全部まとめてみてもらえないと全然結果を出せない方でして、それもオーディションがきつい理由です。一声聞いてびっくりするような声を持ってる訳じゃないですからね。もう、そういう一発で聴き手をびっくりさせるような歌手になりたい、という気持ちもそろそろ無くなってきましたけど。

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