お恥ずかしい話ですが、ゲラに来てから、我が家にはピアノがなかったのです。ベルリンにいるときはレンタルしておりました。
この時は、結果的にはピアノ一台買えるだけの金額をレンタル料として払ってしまいましたが、何年ベルリンに住むことになるかわからなかったので、これは仕方のないことだったと思います。
で、ゲラに来てからは、まずは劇場での稽古稽古で、全くうちでさらう時間なんてなかったんですね。それから、ここ日本とちょっと違うところなんですが、コレペティトゥアという稽古ピアニストが音とりくらいの段階から面倒を見るんですね。だから、あまりうちで楽譜を勉強する時間をとる必要がないという事もありました。もちろん基本的に音とりは自分でやっていたけど、それはキーボードで済ませていたわけです。
で、今年の初めくらいからピアノを買うことを考えて探していたんです。程度の良い中古はないかと。
一度、音楽教室の広告に1000ユーロで、ゲラのピアノ会社のものが中古として出ていて、良いかと思ったんだけど、知り合いのピアノ屋さんにきいたら、やめた方が良いという。「その年代のそのメーカーだと、もし一度もオーバーホールされていなかったら、200?でも高い。もしオーバーホールされていたら、それはかなりお買い得だけど、趣味としてピアノをやっていた人がオーバーホールしているとも考えにくい」という事でありました。なるほど。
最近よく歌曲のコンサートを一緒にやっているアルテンブルク在住の日本人ピアニスト真子・ドルシュさんにもききました。で、贔屓の調律師さんがやっているピアノ屋さんを紹介してもらった。ライプツィヒのピアノ屋さん です。
ここで、僕らの希望に合うピアノが何台か入ったという事で見に行ったのが1月だったかな。3台のうち2台が背の低いタイプ、1台が普通のアップライトでちょっとアンティークっぽい感じ。真子さんによると、アンティークの古い方は、やっぱり古いものだから輸送など、アクションがイカれる危険が新しいものより大きいと。で、背が低い方ですが、そのうち一つは、なんと鍵盤が奥に向かって下がっている。傾いているんです。僕らはこんなピアノをはじめて見たのでびっくりしてしまったんだけど、実は結構あるらしい。
つまり、足が長い人が、あんまり低く座るのはきついので、ある程度高く座っても鍵盤の高さ自体を変えないで済むようにするための工夫だそうです。
でも、僕らは慣れないこともあるし、健登がはじめてさわるピアノがあまり一般的でないタイプというのもありがたくないので、これは却下。
で、もう一つはかなり気に入った。それに僕らと同い年だったんです。偶然だけど。でもよりによってこのピアノだけは前日に来た人が仮押さえしちゃったという。うむむ。数日後に結果がわかったのですがやっぱり買うって。残念。ここまでが以前の話。
で、同じようなタイプのものがあったら連絡くれといっておいて、やっと入手できたのが今回のピアノ。僕は稽古が忙しくて見に行けなかったんだけど、真子さんと嫁さんで行ってもらった。行ってみたら、実は今回も鍵盤が傾いているタイプだったんだけど、傾きが前見たやつよりずっと緩やかでそんなに気にならないという事で決めてもらいました。
そして先日、やっと届き、我が家のリビングにおさまりました。嬉しいです。今年は夏にかけて現代物を結構やらなくちゃいけないので、うちでさらわないわけに行かないし、歌曲を歌う機会が増えてきたから、これでうちでもあわせが出来る。
オペラ歌手の家にピアノがなかったってのはちょっと異常と思われるかもしれませんが、先ほど書いたように、稽古が忙しすぎて、うちで練習する時間がないってのがひとつ。あとはね、僕が声楽的なトレーニングの必要性からさらいたいときは劇場に行ってさらっていたんです。劇場だったら夜中でもさらえるからね。
でも、段々劇場以外の仕事のものをさらわなくちゃいけない部分もあるので、これで良かったと思います。
あとは、登紀子も健登に生のピアノの音を日常的に聞かせてあげたがっていたし、何しろ登紀子自身が結構ピアノを弾くのが好きだからね。
音とりならキーボードでも一緒だろうと、以前は考えてキーボードをおいていたんですが、やっぱり違いますね。どうしてか、といわれてもうまく応えられないんだけど、キーボードで何か音とりをしていると何か居心地が悪いんですよね。しっくりしない。
でもこれでゆっくり家でさらえます。よかったよかった。