Vanessaのプレミエ

バーバーのオペラ「ヴァネッサ」のプレミエが無事に終わりました。


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本来11月にあったプレミエが、タイトル・ロールのザビーネ・パッソーの体調不良によって3月まで延期されたのですが、そのザビーネ、手術後の回復は順調とはいえ、極端に声楽的な負担が大きなこのヴァネッサという役を歌うにあたってやはり本調子でプレミエを迎えられず、不調であるというアナウンスをして、無理をおしてのプレミエとなりました。


とはいえ、やはり豊富な経験をもつザビーネ、見事に歌いきりました。彼女はベルリン・コミシェオパーの専属歌手を長い間務めた人で、クプファーがインテンダントをやめた後に彼女もフリーになったそうです。僕はベルリンの留学時代に彼女の舞台をいくつも見ています。クレオパトラはよく憶えていますね。ヘンデルのジュリアス・シーザーです。
ベルリン・コミシェオパー日本への引っ越し公演でも、ボエームのミミを歌ったそうです。僕は聞いていないけれど。


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このヴァネッサというオペラ、ちょっと筋書きがイカレたはなしというか、去っていった恋人を20年以上も待ち続けるヴァネッサの元にその恋人アナトルが現れるのが第1幕。でも実はその男は去った恋人の息子で同じ名前のアナトル。父の愛した女性を一目見ようとやってきたわけで。
でも、長い間待った恋人の再来に驚喜したあとの失望は大きく、ヴァネッサはそこにはいられません。
そこに残された、ヴァネッサの姪エリカとアナトルは一夜を共に過ごしてしまいます。エリカはずっとヴァネッサの面倒を見続けて来たわけで「私はヴァネッサの影のようなもの」といっていますが、アナトルと関係を持ってしまったのでヴァネッサとの関係もかわってくる。
アナトルは相当軽いやつでしてね。そのアナトルが「エリカと結婚する」というと、エリカは思春期の女の子で、「私の名誉を汚さないためだけの結婚ならしたくない」となり。で、ヴァネッサはアナトルの中に父の面影を見たのか二人は急接近し、結局結婚することになる。
でもエリカは最初の夜の関係でアナトルの子供を身ごもっているのです。で、愛する叔母ヴァネッサとアナトルの結婚式の最中に姿を消す。寒い中、近くの湖に向かったのですが、これはもちろん自殺行為。気づいたみんなの必死の探索でエリカは見つかるのですが、おなかの子供は助からなかった。
そして、ヴァネッサはアナトルと共にパリに移り住むことになり、エリカは一人残されてオペラの終わり。
 
かなりおおざっぱですがこういう筋です。で、僕の役は老医者。ヴァネッサの子供時代から知っている。父のアナトルとも友人だった。で、ヴァネッサに気持ちを寄せているわけです。なので、結婚式の日は、結婚発表のアナウンスという大役を仰せつかっているのに飲んだくれて大荒れ。
オルダーグ演出では、このヴァネッサが住んでいる街自体が「死んでいる街」ではないですが、コルンゴルトの「死の都市」におけるパウルのように、去った恋人が去る前の状態を必死に保ち続けるヴァネッサが、止まった時間の中にいる、というような演出になっています。だから、僕は老医者といいつつ、もしかしたらもう死んでいるかもしれない存在と言うことで。合唱もそういう扱いなのでみんな僕と同じ黒い衣装でメイクは白塗り。
何とかアナトルを排除してヴァネッサをここにとどめようとするのですが、結果的には無駄に終わる。
 
1幕でのアナトルを待ち続けるヴァネッサは精神に異常を来した女性として演出されていて、僕やエリカで懸命に看病しているところで幕が上がります。
そして、アナトル、ヴァネッサに捨てられて残るエリカは、最終場面で、1幕のヴァネッサと同じベッド、同じ状況で精神に異常を来した女性になって、医者である僕と旅立つ直前のヴァネッサに看病されているわけです。
この辺の誇張は、オペラの構造を大変わかりやすくしたと思います。
プレミエのカーテンコールでも演出チームにものすごいブラボーがかかっていたし、これは受け入れられたと思います。


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ちょっとスタイルがなじみにくい音楽でしたが、結果的にはすごく表現力に富んだ音楽で、プレミエのお客さんはみんな堪能したようでした。ヴァネッサが不調だったこともあるけど、エリカ役のフランツィスカが素晴らしかった。稽古の時から「これは彼女にとってセンセーショナルな成功になるだろうな」と思っていましたが、ものすごいブラボーを受けていました。きっと良い批評をもらえるんじゃないかなと思います。
僕は終幕に短いけどきれいなアリアがあるのと、2幕に酔っぱらって結婚式をめちゃくちゃにするシーンがあってね。これは楽しかったですよ。恒例になったプレミエ・プレゼントのカードにもそのことを書きました。声楽的にも決して簡単な役ではないですが、その振幅が表現になって伝わっていく音楽で、大変歌い甲斐がありました。


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プレゼントのカードには毎回、ドイツ語の練習のつもりでギャグを書くようにしているんだけど、最近では「お前のカード面白いからコレクションしてるんだよ」という人もちらほらいて嬉しいです。今回もわざわざ僕の楽屋に来て「おもしろいよ、これ!」といってくれる人が数人いたので、多分ドイツ人が読んでも面白くはなっていたのでしょう。僕の小さいこだわりであります。

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