「午後の曳航」朝日新聞の記事より

オペラ「午後の曳航」に喝采 異彩放ったヘンツェ
2006年09月13日
 夏の1カ月余り続いたザルツブルク音楽祭は、生誕250年を迎えたモーツァルトほぼ一色だった。そんな中、異彩を放っていたのが三島由紀夫原作、ドイツの大物現代作曲家ハンス・ベルナー・ヘンツェのオペラ「午後の曳航(えいこう)」だ。


 原作は、主人公の少年が、あこがれていた船乗りが母との結婚で海を捨てたことに幻滅し、仲間と船乗りを殺害するストーリー。ヘンツェが80年代末に「裏切られた海」の題でドイツ語のオペラに。その後、歌詞を日本語に訳すなどし、原題の「午後の曳航」で、ゲルト・アルブレヒト指揮、読売日本交響楽団が03年に東京で初演した。
 今回の公演は、さらに手を加えた改訂版の世界初演。この音楽祭で日本人が日本語でオペラを歌うのも、もちろん初めてだ。
 アルブレヒトによれば、改訂作業では、翻訳がもたらす、日本語の歌詞と曲の音型との不自然さを解消するために「ヘンツェに約40分の曲の追加を要求した」という。結果に、この名指揮者は「ヘンツェの最も力強く、美しい作品となった」と手応えを感じた。
 船乗り役のバリトン、三原剛も「ヘンツェが三島の作品を愛し、深く読み取っていることが楽譜から感じられる」と称賛。三原をはじめとした歌手たちや、イタリア国立放送交響楽団の熱演もあり、原作の情景が浮かび上がる曲に仕上がっていた。
 日本語の不自然さはなお残り、日本語の歌詞やト書きのための字幕(ドイツ語・英語)が大幅に省略されていて、聴衆には難解な部分もあったかもしれない。
 それでも公演後は「ブラボー」の声が次々飛び、客席のヘンツェに対してスタンディングオベーションが10分以上続いた。オーストリア通信は「今年の音楽祭で、おそらく最長だ」と伝えた。
 7月に80歳を迎えたヘンツェを祝う今回の公演は成功を収め、大きな誕生日プレゼントとなった。

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