トスカの本番 3回目 思わぬ出会い

いやいや、大変でした。前の日記で「何とかなるでしょう」なんて書いていましたが、ちょっと楽観的すぎたか・・・。最終的にはあちこち移動した炎症は、喉頭の下の部分の輪状軟骨あたりの炎症だけになり、分泌物がからむと問題だという事はあるけれど、まぁ大丈夫だと思っていたのです。
それでも不調であることは劇場にはもちろん伝えてありました。ただ、堂守のベルンハルトも病気で突然ゲストを呼ぶことになったと当日の朝に聞き、彼のことで公演開始前にアナウンスがあるだろうと思ったので、出来れば二件のアナウンスは避けるべきだろうと思い、僕の調子に関しては、とりあえず客席へのアナウンスなしではじめました。


少しウォーミングアップに長めに時間をかけて、声帯の鳴り自体は悪くないし、気をつけて歌えば大丈夫だろうと思っていたのですが、このスカルピアという役はただでさえドラマティックな役だし、何しろ芝居が激しくて、ただきれいに歌っているだけでなくて、叫び、唸り、と普通の声だけでは表現しきれない。それに加えて、その芝居の激しさにつられて、若干声のコントロールが乱暴になることもあるわけで、不調だとこっちが怖いわけです。つまり声の使い方に気をつけきれない状況になるとね。
 
1幕も歌うところは少なくはありませんし、最後にテデウムがありますから(例によって合唱だけマイク通して拡声している・・・根に持ってる)やっぱり結構スタミナはいる。で、1幕終わったところで中音域の鳴りがかさかさしてきて、このままでは2幕の激しさと歌う量などを考えても、すんなりいくとは思えない。
で、やっぱり演出助手に「2幕の前にアナウンスを入れてください」とお願いしました。
この、公演中のアナウンスというのは、僕はすごくかっこわるい事だとおもっていて、前は絶対やりたくないと思っていたのです。「あ、歌ってみたら何だか調子悪いから、アナウンス入れてくれる?」というノリに思われそうな気がして。
でも、何年か前のナブッコで、やはり他のキャストに病欠者がいて、最初のアナウンスを遠慮したんだけど、4幕の前にアナウンスを入れないとどうしようもない状況になって、やってもらったことがありました。今回もそうだけど、途中でアナウンスが入ると、客席がすごくざわざわするんですよね・・・。
 
でも、今回もこのままでは無理そうなので、お願いしました。
やっぱりアナウンス入れてもらって良かったですよ。すごく派手で目立つ破綻はなかったけど、やっぱり声が保ちきれないところが多々あったし、中音から低音にかけてどんどん鳴りが悪くなっていったし・・・。
でも、舞台の温度が下がらないように、最大の努力をしました。楽屋に戻ってきたら、本当に声が全然出なくなっていた。最後のカーテンコールでも結構ブラボーが出ていたので、努力は伝わったという事でしょう。でも疲れた・・・。
 
と、別の話。
堂守のベルンハルトの代わりに、近くのハレの劇場から助っ人が来てくれました。今、ハレでもトスカをやってますからね。自分の衣装も持参して(うちの劇場の衣装を大急ぎで直して使ったりしないで良いように)着てくれました。品の良い老紳士です。
自己紹介をして音楽稽古を一緒にして、何だか聞いたような名前だな、とか思ったけど、自分のことで頭がいっぱいであまりよく考えず。
で、楽屋にいると、その老紳士と、シャルローネを歌っているライプツィヒの学生が仲良さそうに話している。そのシャルローネのフェリックスは子供の時にハレで魔笛の童子を歌ったりしたそうで、その時のザラストロがその老紳士だったと。で、その老紳士、ベルリンにいる息子のことを話したりしている。ん?息子の「ロマン」が今度バイロイトで・・・とか言ってませんか?
この人、ユルゲン・トレーケルって言ったよな。そういえばロマン・トレーケルのお父さんがハレの劇場の専属だという話は聞いていたじゃないか。なにっ!ロマン・トレーケルのパパですかぁ!
 
ロマン・トレーケルというバリトン歌手はもう日本でも何度か歌っているのでご存じの方も多いかと思います。僕にとっては、ベルリンで留学していたときに、本当に何度も何度も、何度も何度も聞いたバリトンで、大好きなバリトンの一人なんです。クプファーの演出で彼が歌ったタンホイザーのヴォルフラム。これ以上のヴォルフラムはあり得ないだろう、というくらい素晴らしいヴォルフラムでした。他のキャストも素晴らしかったんだけどね。いまだに僕にとっての最高のオペラ体験を挙げろと言われたら迷わずこのタンホイザーと答えますね。
アンゲラ・デノケが演じるエリーザベトが去っていった後に、あの有名な夕星の歌を歌う前に、トレーケルのヴォルフラムが頭を抱えてがっくり腰を下ろすところ、今でも目に焼き付いていますよ。
 

そのパパと共演できるなんてね!僕が如何に息子さんの舞台を喜ばしく見ていたかを伝えると、やっぱり息子の話になると頬がゆるんで「ロマンは自慢の息子ですよ」と言っていました。出来れば写真を一緒に撮りたい気持ちだったけど、僕は自分の状態と戦っている真っ最中だったし、彼は1幕で出番が終わって帰ってしまうので、やっぱり写真は撮れなかったなぁ。残念。
 
次の日、そんな喉の状態なので、Cosimaのコレペティはキャンセルして、一日家にいました。といっても喉以外は元気なんだけどね。まぁ疲れてはいるか。
嫁さんが、最近はヴァルドルフ小学校のオイリュトミー授業のピアノ伴奏をしていて、午後に幼稚園のままさん合唱団もやっているし、水曜日は一日いないのですね。
で、健登の風邪もイマイチ良くならないし、今日は大事をとって一日幼稚園を休ませました。絵を描いたり、一緒にチェロ練習したり(僕も頑張ってピアノ伴奏練習した!父子の初共演だ!)サッカーしたりしておりました。
サッカーしていたら、右足の内側がえらく痛むことに気がつきました。ふむ。覚えがない・・・。
半日くらい後になって思い出しましたが、2幕の最後に椅子をけっ飛ばしたときに、えらくいたかったっけ。打ち所が悪かったらしい・・・。

“トスカの本番 3回目 思わぬ出会い” への2件の返信

  1. そのトレーケル・シニアのこと、私、前にお話ししませんでしたっけね(^_^)?私の出ていたハレのプロダクションのなかで「大御所数学者」の役をやっているよ、と・・・。

  2. >ぴかままさん
    へい。そのとおりでげす。
    「彼のお父さんがハレの劇場の専属だということは聞いていた・・・」のくだりがそれであります。
    誰から聞いたのか失念しておりました。大変失礼いたしました。

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