稽古場情報の続報です。
今回のプロダクションでは、各役、歌う出番以外の出番が結構あります。つまり、本来は舞台にいない設定になっているところで舞台に登場します。あんまりプレミエ前にコンセプトを出しちゃうのも賛否両論かと思いますが、ちょっとだけ。
僕の役、ヴォータンはワルキューレという作品の中では、作品の動機という意味では中心に位置します。彼がもともと暗黒面の欲求に引き寄せられて一度は手にしたニーベルングの指輪、この魔力によって神々に滅亡の危機が迫り、この危機を回避するために必死に想いを巡らせて練った計画が、つまりは神でない英雄による神々の救済な訳ですが、これが打ち砕かれるのがこのワルキューレの物語です。
自分がヴァルハラ城を建てさせた代償として支払ったラインの黄金の一部である指輪に、契約上彼自身は手が出せない。しかし指輪を打ち砕かない限りはその本来の所有者であるアルベリヒ、愛を呪ったものだけが手にする力を持つアルベリヒの野望も打ち砕けない。
神々の救済を望むヴォータンの意思を汲んで、しかしヴォータンの言いなりではなく自分の意思としてそれを行うものとしてジークムントに期待をかけ、巧みにノートゥングという最強の武器を、彼があたかも自分の意思で得たように与えるという計画が第一幕ですが、ここにヴォータンの意思、計画が働いている事は、ヴァーグナーの台本と音楽を読み解いていくと明らかです。
でもこれは、ヴァーグナーの示導動機という作曲の仕組みを聞き取れないとすぐには判らない部分で、これを視覚化もして、聴衆に強く印象づけたいというのが、今回の演出家ジョエル・ローウェルスのコンセプトです。決して新しい考え方ではありませんが、効果的で、しかも彼のセンス良い読み取りのおかげでとても美しい形でそれがなされていると思います。
この日の稽古ではヴォータンが姿を見せる事で、彼の意思の働き方をはっきり視覚化する試みを二つの場面で稽古しました。ひとつは1幕の後半、ジークムントが父親であるヴェルゼ、身分を隠したヴォータンから与えられた剣ノートゥングを獲得する場面、もう一つはジークムントが2幕でブリュンヒルデから死を告知される前の場面。
1幕の方では、ジークムントがトネリコの木に刺さっていて、真の英雄しか引き抜く事が出来ないという剣ノートゥングを引き抜く場面です。後ろの方で演出家と僕が所作の相談をしています。
2幕の方は、ブリュンヒルデよりひと足早くジークリンデとジークムントのところに現れたヴォータンが、このあとフンディングとの決闘で死ぬはずのジークムントはともかく、もう一人の子であるジークリンデに用があってやって来る設定になっています。しかしある事に気がついてその用事を済まさずに帰っていきますが・・・。この作品をよくご存知の方は、ポーズで何が起こっているのか、もうお分かりになるかも知れませんね。
また稽古場の様子をお知らせしたいと思います。あと一週間でドイツに戻ってゲラでのトスカ公演を二回歌わねばならないので、一度目の滞在は残すところわずかとなりました。気合いを入れていきたいと思います。