パッサウの「サロメ」

金曜日にパッサウの劇場から電話がかかってきて、土曜日の公演「サロメ」のヨハナーンが急病で代わりを探しているが、あなたはヨハナーンを歌ったことがありますね、ということでした。


僕の履歴書をどこかで見たんだと思いますが、確かに僕は「サロメ」のヨハナーンは歌っています。これは新国立劇場へのデビューでした。2000年の4月、ミュンヘンの演出を新国立劇場が買い取ったもので、アウグスト・エヴァーディングの演出でした。
でも、これは8年前の話で・・・時間が経つのは速い・・・その直後に生まれた健登が今は8歳ですからね。当たり前に時間は過ぎていきますね。
だから、8年間ずっと歌っていない役をいきなり明日歌うというのは大変だけど、何しろ大好きなR.シュトラウスだし、とりあえず歌うことにしました。ゲラでは土曜日には公演はないし。パッサウの方でも既にゲラの劇場のKBB(Künstlerisches Betriebsbüro 制作部といえば一番近いかな)に確認はすませて、KBBから僕の電話番号をもらったらしい。
 
パッサウのサロメはかなり現代的な演出だけど、ヨハナーンはまぁ設定通りの場面だけ舞台に出て、芝居もあまり多くはないからその点は大丈夫だろうという。ただ・・・と、言いにくそうに「あまり多くを体につけていません」とのこと。まぁヨハナーンだからね、半ば裸でもおかしくない。どうせ次の金曜日にはまたCosimaで裸踊りしますしね。これは僕にとってはそれほど問題じゃないです。
 
でも、話を聞いてみると、本来ヨハナーンを歌う歌手は声の問題じゃなくて、腰痛で舞台に立てないらしい。でもプレミエ後3公演目で、劇場としては出来たら本来の彼に歌わせたい。そして本人もそう希望している。だから明日の朝まで判断を待ってくれないかと。
またか・・・と思いました。これで今まで何度かありがたくない目に遭っているからです。必死に楽譜を見て他の演出にもあわせられるように気持ちの準備も、荷物の準備もしてゲラを出ようとしたときに「やっぱり来なくて良いです。」と言われるってのを。ゲストでゲラに来る歌手仲間と話すと、人によってはもう、そういうのはやらないと決めている人も多い。つまりその時点で決断しないならやりませんと言うわけです。僕がスカルピアを一度だけキャンセルしたときも、うちのインテンダントは当日までは待たなかった。前日の午前10時に決めて連絡しろ、といわれてそうしました。役の大きさとかを考えてもこれは適切な判断だと思う。
 
で、僕も今回はそういいました。でもパッサウの劇場の方は、何とか待ってほしいという。僕はだったらやらないと言ったんだけど、そのあともう一度電話がかかってきて、別のやり方をオファーされた。僕のその日の準備に対してギャラの一部を払うから、当日の朝まで待ってくれと言うんですよ。お金の話じゃないんだけどな・・・と思ったし、そうも言ったんだけど、あちらとしては結局待ってくれないと困るらしい。主に僕としては週末の予定がすべて組み替えになってしまう事がかなり問題で、家族のメンバーにも大きな影響があるし、特にこの週末は嫁さんがヴァイマールのオイリュトミーの講習に行くことになっていたからその辺もずいぶん影響される。その辺の予定をキャンセルした上で「やっぱりこなくて良いです」では困るわけです。でもいろいろ考えたあげくに妥協をすることにしました。
 
金曜日の夜はかなり夜更かしして楽譜を見て、舞台上にいる場面は何とか暗譜し直して、牢屋にいるところは楽譜を見られると言うことだったから、これで良いだろうと言うところまで勉強してから寝ました。
でも、次の日の朝、パッサウのKBBから電話があって「うちの歌手が歌うことになりました。歌えるそうです。」だそうで。
まぁヨハナーンという役はまた歌う可能性もあるだろうから、それはそれで良いんだけどなんだか割り切れない感じはします。仕方ないんですけどね。人間修行だな。

“パッサウの「サロメ」” への2件の返信

  1. お久しぶりです。
    先生のご活躍を読ませていただくのはとても楽しみです。
    オペラには控えの歌手(英語ではカバーと言います)が存在したと記憶していたのですが、
    今回の場合は違っていたのですね。
    カバーで歌って世界的な名声を持った歌手も多いと聞きますが、舞台裏はいろいろあるんですね。
    容子先生とのデュオは必ず行きます。
    今からとても楽しみです!

  2. >anego_lifeさん
     
    レスが遅くてすいません。お久しぶりです。
    カバーはいつもいるとは限らないです。特にパッサウくらいの劇場(客席数はゲラの半分強です)だとカバーを置く資金的余裕はないんじゃないでしょうか。うちの劇場でも、明らかに必要性があるとき以外はカバーは置かないです。その代わりにダブルキャストにするということはありますね。

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