今年のデュオ・リサイタルのことをやっと書き始めたばかりなのに・・・という気もしますが、来年のデュオ・リサイタルのプログラムを決めるべく、物色もしています。その中で久しぶりにマーラーの歌曲を聴いてみたりしました。
久しぶりに親ばかモードですが・・・健登が何度か聴いただけで歌詞を憶えて歌ってるのを聴いて仰天してしまいました。やっぱり半ばネイティブ・スピーカーだからでしょうか。うらやましい。
最初は車の中で時々、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの録音をかけていました。学校に迎えに行った帰りとかは一緒に聴いていたわけです。特に「Aus! Aus!」が気に入ったようで、marschieren(行進する)とか、この年齢の男の子が好きそうな単語が出てきたりすることとか、勇ましい感じのリズムが気に入ったんでしょう。他の曲をかけていると「Aus! Aus!にして」とリクエストをするようになって、それならと思って僕も「これの次の曲が面白いんだよ」と、「高き知性をたたえて(Lob des hohen Verstandes)」ってのをかけたんです。これはナイチンゲールとカッコウが歌比べをしてそれをロバが審査する、と言う歌で、最後なんかロバの鳴き声で終わる、すごくコミカルな曲です。これも気に入ったみたいだったから、昨日だったか、うちに帰ってから僕のお気に入りのワルター・ベリーの録音を聴かせたんです。
ちょっと話がそれるけど、オッターという歌手は素晴らしい歌手だし、大体僕の師匠のDavidの弟子、つまり姉弟子だから、もちろん僕も一目置いている(態度でかいでしょうか)んだけど、好みで言うと好きなタイプの歌手ではないのです。この人とかバーバラ・ボニーの歌を聴いていると、彼女たちがどういう風にDavidの技術を料理、と言うかうまく使いこなして音を紡ぎ出しているか、が良くわかって、すごく勉強になります。反面、あまり感動しないんです。すいません。これについてもよく考えてしまうんだけど、今日は「オッターの歌はあまり転調しないなぁ・・・」と思ったりしてました。
で、発声に癖があるような気がしていたけど、ワルター・ベリーというのは僕が大好きな歌手です。彼のバーンスタインとのライブの「子供の不思議な角笛」の録音を聴かせてあげたら、健登はもう大喜び。顔を見ているとにやにやしちゃって、ベリーが音色をかえるところにいちいち反応して「Meisterstückだって!」「Ohren großだってさ!」とか言ってげらげら笑ってるんですよ。「この人の方が女の人より全然面白い!」と言うんだけど、まぁ息子と好みがあって良かったなって事もありますが、そのあと何度か聴かせたら、もう一人で歌い出してるんですよ。検証してみたら歌詞の70%くらいは憶えやがってましてね。まったく。
僕がこれ一曲憶えるの、結構大変だと思うんですよ。言葉遣いも民謡風で標準語的じゃないし。でも逆に健登は学校で童謡とかの言葉には慣れているから、こういう「角笛」みたいな民謡から発しているものには親しみがあるのかも知れない。
それにしても、クラシックのCDから良く聞き取りますよね。オッターの「Aus!Aus!」を聴いてるときも「なんだかSchatz(宝)だらけだなぁ・・」とか言って。そう言われてみると確かにマーラーの歌曲ではSchatzと言う単語が他の作曲家のものより頻繁に出てくるなぁと思ったりして。まぁ健登にとってのSchatzはここで使われている「いとしい人」という意味じゃなくて、誕生日パーティーとかでやった宝探し(Schatzsuche)のSchatzでしょうけどね。
親ばかついでに少し書いてみるけど、実は健登の音楽への興味とか認識力には時々驚かされるのです。ドイツでの新聞に何度も写真が載ったけど、ワルキューレも5時間弱、眠りもしないで最後まで見たし、その一度見ただけのはずなのに、あとでうちでワルキューレのモチーフを聴くと「あ、これはパパが煙の中から出てきたときの音楽だ」って言うとか、良く聴いてるんですよ。「ジークムントはein Quell’(泉)って言ってたのに、どうしてコップに入った水が出てきたの?」とか聞くし。
ハッとしたのは、フンディングとジークムントの決闘のところの話。フンディングの歌詞に犬をけしかけるのなんのという箇所があるので、なんとなく「フンディングは犬を沢山飼ってるのかなぁ」と僕がいったら、健登も何となく「だって、フンディング(Hunding・・・Hundはドイツ語で犬の意味)だもんねぇ」とつぶやいて、・・・そうか!!!となったことがありました。
まぁ気をつけていればわかっていても良いのかも知れないけど、8歳児(当時は7歳か)に言われて気がついて、なんだか情けないような・・・。
ま、半分ネイティブですから。仕方あるまい。(やっぱり何か悔しいらしい)
でも、実際に健登のドイツ語の発音を聞いてなるほどなぁと思うことがあります。例えば「い(i)」の発音には二種類あるのですが、この二つの使い分けなんて、日本人の歌手で意識して使い分けている人が何割くらいいるんだろう。意外に少ないと思うんですよね。国際発音記号で言うと大文字のIと小文字のiになるのですが、実際にこの二つを知らずに歌っている人はちゃんといる。違いを知っていても歌で使い分けをしっかりしていない人はもっとたくさんいるはず。
健登のこの二つの「い」は、割とはっきりしていて、健登にドイツ語で何か歌ってもらうとはっきりわかるんです。この地方の方言で、広い方の「い」が標準語より広めと言うこともあるかも知れないけどね。