行って参りました!お会いしたのは何年ぶりだろう。へたしたら14年ぶりという事になってしまいます。文化庁オペラ研修所の修了公演「ドン・ジョヴァンニ」でみっちり稽古をつけてもらったわけですが、その後お会いしたかどうか憶えていない・・・。
もちろん年はおとりになったわけですけど、先生とても元気でした。本当に値千金のレッスンをしていただきました!!
ロンドンにDavidのレッスンを受けに行くときもそうなんですけど、まずは質問攻めにさせていただきましたです。はい。
デュオ・リサイタルでヴェルディを取り上げると決めてから、ドン・ジョヴァンニをやった時の膨大なノートをまず解析して(殴り書きも多くて、自分でも読めなかったりするところもありまして・・・)Macで出来る限り系統的にわかりやすくまとめようと努力してきました。ただ、とにかく情報量が膨大で・・・本当に僕は当時真面目な学生だったんだなぁと思います。すごく細かくノートを取ってあって、しかもこれが大変良かったんですが、当時の僕には理解不可能な事も可能な限りガルディーニ先生のおっしゃる言葉をその通りにメモしていたんです。これがイタリア語の発音、発語、イタリアオペラの演奏法についての理解が深まっている今、ノートをまとめていて「そういう事だったのか!」と判る事が沢山ありました。
この作業は、僕に大きな喜びをもたらしてくれましたが、当然のことながら、理解を深めているプロセスで新たな疑問も出てくる。これをまずは解決しないと先に進めない。それで最初はガルディーニ先生を質問攻めにする事になりました。
細かくは書きませんけれど、ここでほとんどの疑問が解消し、実際に歌ってレッスンをつけていただく事になりました。先生はピアノの向こう側のバースツールみたいなところに腰掛けて指揮をして下さいます。ああ、あの揺れ!懐かしい!と思いつつマクベスのアリアからスタート。
先生のイタリア語なまりの英語も大変懐かしかったです。前のエントリに書いたかも知れないけど、僕は当時どういうわけか、通訳兼授業の進行役みたいな事をやる羽目になっていて、他の研修生の質問を訳したりもしていたのです。どうして僕の英語力でそういう事になる?と思いつつも、しかたなく。でも結局先生のお傍にいる事が出来たので当時から細かい事を質問できましたから、後から考えるとすごく得をしたと思います。
レッスンの細かい内容については書く時間がない(これから最後の合わせです。ドキドキ)のですが、とにかく充実した時間でした。先生のレッスン室に目のうろこをまた大量に落としてきました。これはDavidのロンドンでのレッスンでもおんなじなんですけどね。こういう素晴らしい師匠に恵まれるという事は本当に何にも代え難い幸福ですね。
そういえばDavidは、僕はガルディーニ先生を良く知っている(ロイヤルオペラで一緒に仕事をしていたはず)けれどは彼は自分の事を知らないと思う、といっていたんですが、ガルディーニ先生は「Harper氏の事は良く知ってる」といっておられました。まぁヴォイス・トレーナーとしては世界的に有名な人ではあるから当然なのかも知れないけど。Davidにも教えてあげよう。
David自身も、当然ですがガルディーニ先生が教えて下さるイタリア語発音の事にはすごく興味をもっていて、この間のレッスンでも「ガルディーニ先生が教えた事を教えてくれ」と言っていたんでした。メールで報告しようかな。喜ぶだろうな。
トロヴァトーレの後だったか「インクレディブル」とおっしゃるので「は?」となったらば「You are not japanese! You sing italian legato!」と言って下さって、小森は泣きそうになりました。ガルディーニ先生がこんな風に褒めてくれる事は、当たり前だけど14年前はなかった。当時は僕はDavidに出会う前で、発声的にはかなり問題を抱えていたのでした。で「もっと男らしい声で歌え」とか「口をあけるな」とかビシバシ言われておりました。ドン・ジョヴァンニで発音的なところでは合格のハンコを頂きましたが、声の事では及第点ではなかったと思います。
そしてその2ヶ月後、Davidのメソッドに出会った時「この発声メソッドならガルちゃんの音楽が出来る!」と狂喜したのをはっきり憶えています。14年の歳月を経て、その成果をちゃんと先生に聴いてもらえたのはめちゃめちゃ嬉しいです。リップサービスかも知れないけど、そのあと「お前、カップッチッリみたいだぞ」とか「いや、カップッチッリよりお前の方がうまい」とか言われて、ガルディーニ先生に思わず抱きつきそうになりましたが、我慢して握手してもらうだけにしておきました。
ガルディーニ先生の教えで僕に最初のショックを与えたのは「ベルカントとはcantare senza accentareである」という言葉でした。発音のルールもこういうイタリアの歌文化の根源にある、いわば「言葉の文化の力学」に根ざしているんです。アクセントが好まれるドイツ音楽とは全然違う。細かい発音のルールも、また韻律法への理解も、この力学への理解なしには前のエントリでの「象牙の塔」、机上の空論の状態になります。歌ってなんぼ、歌に活かしてなんぼです。
・・・本番前にこんな事を書くのは自分でハードルあげて、あるいは掛け金をつり上げてリサイタルに臨むようなものですが、ガルディーニ先生のご恩に報いるためにも、徹底的に頑張ります。