シュプレヒコール

ネガティブな話題なので今までは書かないでいたのですが、実はうちの劇場は今、重大な危機を迎えています。ドイツの経済が非常に悪い状態であることはご存じの方も多いかと思いますが、文化に対する国家予算がどんどん削られていて、今特にこのテューリンゲン州ではかなり大なたが振るわれようとしています。

うちの劇場は7年前に合併したばかりで、とりあえず閉鎖などの危機はないという話だったのですが、去年の11月に劇場全体の集会があって、その時にショッキングな発表がありました。
2008年まで劇場に対して予算が割り当てられることについて確約を得られたが、条件付きで、かなりのリストラを...


要求されたのです。そこでオーケストラの人員削減とともに、合唱を丸ごと(!)リストラする案がインテンダント(劇場総監督)から提案されました。
合唱なしでオペラができるわけないんだから、これはオペラ部門全体をリストラする第一歩だとかいろいろな憶測が飛び交いましたが、とりあえずは目の前の問題です。

インテンダントがもう一つのプランとして提案したのは、2008年まで、全ての従業員がボーナスをあきらめ、なおかつ現在の給料を凍結することに同意するならば合唱は助かるというものでした。
これはね、僕はとても汚い手だと思うのです。これでもし従業員の結束が得られずに合唱がなくなればその責任の何割かは、このプランに同意しなかった同僚にあるというふうに持っていくわけでしょ。
ともかく、このプランに全従業員が賛成するかどうかがひとつのポイントで、この投票は1月に行われたので、ぼくはアラベラの稽古たけなわの頃、東京からfaxで投票しました。
実はぼくはこれは無理だろうと思っていたのです。だって、オケの人がたった一人、あるいは清掃係の人が一人拒否したらもうこれは成立しないプランなのです。
それが驚いたことに、全員の賛成が得られてこのプランをメインに将来の道を模索することになりました。

このテーマについての政治家や劇場の首脳を交えた会議が今日の昼にアルテンブルクの劇場内でありました。で、オーケストラのメンバーから発案されて、その会議の参加者を入り口で待ち伏せ(?)て、陳情ではないけれど僕らの意志を訴えようということになったのです。それが下の写真。で、会議の参加者が来るたびに「Theater muss sein! Theater muss sein!(劇場は必要だ!)」とシュプレヒコールを繰り返したのでした。

会議に参加したオペラディレクターからの話では、「まだ詳しいことは話せないが、おおむね劇場側の希望する方向に進んだ」とのこと。オケと合唱が人員削減されることは避けられないと僕は思っているけれど、それについて具体的な言及はありませんでした。
とりあえずは、最悪の事態にはならなかったということです。良かった良かった。

僕も、ここで職を失ったりしたら大変なことだし困るんだけど、所詮ここでは異邦人だし、この劇場で骨を埋めることにはならないと思うのです。でも、ここでもう15年以上働いて終身雇用になった人などから見れば、この件は本当に死活問題です。
とりあえずオペラ部門自体は残るわけだし、合唱を専属として持つか、公演のたびに雇うかという違いで、なんとか上演することはできるわけだし(なかには合唱はそのたび雇った方が経済的と言う意見すらあった)、ソリストに関しては、すぐにクビ、と言うことはないのですけれど。


2003年3月18日(火)スクリプトで読み込み

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