さて、14日にまたしてもエア・ベルリンで飛んで、ロンドンにやってきました。約2年ぶりのレッスンです。どきどき。
ベイズウォーターという地域に宿を取りました。僕はこの辺が好きなんです。最初にロンドンに来たときもここに宿を取ったけど。Davidのレッスンルームから近いこともあるけど、このあたりの雰囲気が好きなのです。中心地だからどこに行くのも便利だし。
ここに再び立って「またここに帰ってきたぞ!」という感...
慨に近いものがありました。
僕の場合はレッスンを毎週とか毎月というペースで受けられませんから、1年や2年の感覚になります。その度に技術は進歩してきたわけで、ロンドンの地に降り立つことが、歌い手としての僕のマイルストーンとして刻まれていく感覚があるのです。
前にどこかで書いたかも知れませんが、僕の師匠であるDavid Harperはピアニスト出身のヴォイス・トレーナーです。もともとピアニストとして仕事をしていたのが、歌手との仕事をするようになってから発声技術に興味を持ち、音声学や生理学の方から研究をしてヴォイス・トレーナーになったという変わり種です。ピアニストとしても活動しています。
彼のレッスンを受けている歌手は世界中にいますが、有名なところではソプラノのバーバラ・ボニー、メゾ・ソプラノのアンネ=ゾフィー・フォン・オッター、バリトンのオラフ・ベーア(割と最近から)等がいます。ミシェル・クライダーなんかも一時期来ていたそうです。掲示板にTom der Reimerさんが書いてくれていましたが、フォン・オッターのポートレート番組にも出ていたそうですね。
まぁえらい細かいレッスンをする人なのですが、生理学の方から始めているからか、指示が実に的確で、どの筋肉をどの様に使って、この表現では第何倍音を入れるの入れないの、舌のどの部分が奥歯のどこに触れていなくちゃいけないとか、喉頭を傾けすぎだのと。でも僕も結構頭でっかちというか、感覚優先では歌えないタイプで、まずどうなっているのか理解しないとダメなので、この彼のやり方は本当にばっちりはまるのです。
僕が2年なら2年ため込んだ疑問と問題を全てその場で解決するのだから、本当に驚きます。
説明という形で解決するのではなく、実際の「僕の体から発する声」と言う形で答えを提供するのです。これは本当に驚くべき事です。僕が出したい声が必ず出るのです。
この声が日常の公演や練習で出るかどうかは、僕の理解力や集中力、音楽的知性などにかかっていますが、彼の前では必ず出るのです。僕は彼のレッスン室で毎度毎度びっくりする羽目になります。だって本当に出るんだもの。先生が歌ってくれる見本ではなく、自分の声として答えが出るのです。本当にIt’s exciting!という感じです(ただいま英語モード)。本当にうまく行くと踊り出したくなっちゃいます。
だから彼のスタジオには、僕の目から落ちた鱗が積もっているはずです。ここに来るたびに「正しいことは簡単(あるいは単純)なんだよなぁ・・・」と思ってしまいます。その簡単な正しさにたどり着くのが至難の業なんだけど。
今回は、最初にナブッコを少し見てもらいましたが、そのあとドイツリートに移って、ここ何年か、納得できる音色にたどり着かなかったリートでの声について、自分のセンスで掴んだ感じが初めてしました。つくづく必要なのは肉体的労力ではなく(それももちろんありますが)むしろ、メンタル・スタミナなんだと思います。フィジカルなスタミナじゃなくてね。
今日は何を見てもらおうかなぁ・・・。
2003年7月15日(火)スクリプトで読み込み