「第六の時」立ち稽古での騒動

「第六の時」の立ち稽古は、指揮のGMDガブリエル・フェルツが昨日稽古に来たことで、僕が予想していたとおりの騒ぎになりました。

というのは、ガブリエルが他のコンサートなどで忙しくて稽古に来られない間、問題を未解決のまま立ち稽古がずっと進んでいたのです。
僕は常々スタッフに、「ガブリエルが来たら、今やってることが色々変更を強いられるぞ」と言っていたのです。ガブリエルが放っておくわけないですから。でもここまでの騒ぎになるとは思いませんでしたね。

まず一つ目の問題。作曲家で指揮者でもあるロートマン氏が稽古の指揮をしていたのです。でも、彼は指揮者としては、...


特にリズムの難しい現代物では色々問題があるのです。ガブリエルと比べるのがちょっとかわいそうな気もするけど、まぁロートマン氏は自分で書いた作品だから、ガブリエルより良く理解しているはずでもあるのですが・・・。まぁ難しいところです。
具体的にいうと、ロートマン氏は振り間違いが多いことと、歌手にキューを正確に出せないのです。当然、歌手やピアニストのミスも万全にして期できないわけです。だから一見問題なく進んでいるように見えてミスが見過ごされてきたのです。
それと音楽的な最高責任者のガブリエルの許可無く、あるフレーズを繰り返したり、音を変えたりリズムを変えたりという事をずいぶんやってしまいました。まぁ作品の生みの親ではあるんだけど、もう稽古始まってますからね。

で、二つ目。将校の役と司令官の役はロートマンの推薦した歌手がゲストとして歌っているわけですが、そのうち主役の将校のモニク・クリュスは、声は立派だし現代物の経験はたくさんあるようだけれど、リズムに関して少しルーズなんですな。
もちろん稽古だから、弱いところを良くしていくプロセスなわけで、ルーズなのが直っていけば良いんだけど、彼女の場合、あまりそういう意識がないようで、拍を間違えるならともかく、2小節3小節どころか、1ページとかとばして歌っても平気なんですね。結構まわりは参っちゃうわけで。僕は彼女の音程を元に音程をとろうとしているところが何カ所かあったのですが、そういうわけで彼女のフレーズから音程をとるのは完全にあきらめてオケ(稽古ではピアノですが)から音程をとるようにせざるを得ませんでした。
でも彼女が、オケと互い違いに歌うところをオケと一緒になっちゃったりするのが平気な感じでずっと来ていたわけで、これはガブリエルが来れば放っておくわけはないと思っていました。

問題の3つ目は我らがシュトゥディーンライターのシュトレ氏。僕はかなり彼とはぶつかることもあったんだけども、今回に関してはもう我慢の限界。このシュトゥディーンライターというのは音楽的準備に責任を持つポストで、彼が歌手の音楽稽古を仕切らなくちゃいけないんです、ほんとは。新国立劇場でも今回このポストが新設されたそうですね、そういえば。

だから、シュトゥディーンライターが「弾けない」ということは、あり得ないしあってはならないのです。大体先シーズンからこの「第六の時」の音楽稽古を始めなくちゃいけなかったのに、彼は逃げて逃げて「僕は「ナブッコ」の音楽稽古で忙しい」、「ちょっと客演の仕事が詰まっていて」(これ、はっきりいって理由になりませんね)だのなんだのと稽古をすっぽかし続けて今に至るのですが、現在、つまりは「弾けない」のです。
実は彼は、ついこの間、シュトゥディーンライターの役職を解雇されたのです。実際に彼がこのポストを離れるのは来年8月だけど。それで、結構やけくそになっているのかも知れない。
僕も解雇されたことについては気の毒だと思うから、あまり今回もぐちゃぐちゃ文句はいわないでいたのです。立ち稽古で、指揮と歌手はあっているのにシュトレ氏だけ違う小節を弾いているときはさすがに「これは稽古になりませんよ」と言って音楽を止めたことがあったけど。

で、昨日の稽古にガブリエルが来て、もちろん彼はきちんとやるから、ロートマン氏が見過ごしていた音楽的ミスでいちいち引っかかる。テンポがロートマンよりずっと速いからシュトレ氏がより弾けなくなる。将校の歌手は自分が間違うとガブリエルに「そっちを見る暇ないから口で、今何拍目か叫べ!」と命令する。(仮にも音楽総監督の彼にですよ。ああびっくりした)
全く稽古が進まなくなりました。当然の結果です。


多分シュトレ氏は外されるでしょう。その他の問題がどう解決されるのかは、まだわかりません。

しかしね、ガブリエルの指揮ぶりには驚きました。この作品の立ち稽古に初めて、しかもいきなり来て振ったわけで、将校の歌手とはこのときが初対面。リズムが複雑で、作曲家でさえきちんと振れない難曲です。
それを全部のキューを将校、合唱、僕と司令官に出して、全くミスなし!将校に至ってはあやふやなところが多いので、フレーズの方向や上行下行まで指示して、今まできちんと歌ったことのない将校が完璧に歌ってしまった!(・・・もちろんシュトレ氏が弾ける場所に限ってなんですが)たった二本の腕だけで、なんであんなことが出来るんだ?!
2003年10月22日(水)スクリプトで読み込み

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