いよいよ「椿姫」のプレミエが近づいてきました。

明日はハウプト・プローベ第一回。明後日は第二回、そして水曜がゲネプロで、一日オフの後にプレミエが金曜日です。
水曜日と木曜日がBO(舞台オーケストラ稽古)でしたので、後は衣装を付けて照明なども入るハウプト・プローベを待つのみ、と言う感じのはずだったのですが、昨日の土曜日、急に立ち稽古を入れられてしまった。


ずーっとジェルモンとしては殆ど芝居的にダメが出ないでここまで来ました。最初にキャラクターについてのコンセンサスがとれていたからだと思います。実は、演出のプリューアー教授のジェルモン像に関しては、この劇場に僕が来たばかりの2000年秋に既に触れる機会があり、その時から納得はしていたのです。
2000 年9月の「ファン感謝デー」のような「Tag der offenen Tuer」という催しで、僕はやはり新入りソプラノのダヌータ・デプスキーと「椿姫」の二重唱を演奏しました。それは稽古場を見せる、と言う企画だったので、演奏に対してブリューアー教授が演出家として注文をつけるという様なやり方でした。その時にブリューアー教授の言っていたことは大変納得のいくもので、その時から「この人と『椿姫』をやるときはきっと納得して出来るな」と思っていたのです。
僕が良く感じていることですが、イタリアオペラの上演に関して、各役が「タイプ」として、とても大まかなキャラクターづけで演じられることがまだまだ多い様に思うのです。例えばカルメンならいつもバラの花をくわえているとか、ヴェルディのオペラにおけるバリトンの父親役は包容力があって・・とかね、まぁうまく一言で言えないんですけど。
なかでも良く誤解されるのがジェルモンとシャープレスだと僕は思っています。まぁ他にもたくさんあるのかも知れないけど、僕のレパートリーの中ではね。
シャープレスというのはもちろんオペラ「蝶々夫人」に出てくる領事の役です。彼ははっきり言って「傍観者」であって、自分の立場上、ピンカートンを責めることもするけどそれだって手遅れになってからだし、2幕でピンカートンからの手紙を蝶々さんに読んで聴かせるときに色々と人間的なコメントを独白でするものの、蝶々さんの幸せのために自発的な努力をそれほどしているとは思えない。
そういえば、この僕の考えがわかってもらえなくて、日本で初めてシャープレスを歌わせてもらったときは稽古場で言い合いになったんだっけなぁ。あのときはまだ学生だったし、鼻持ちならんやつと思われていたことでしょう。
まぁそれはいいとして。
ジェルモンも、ヴィオレッタに対して自分の息子と切れてくれと頼みに来るわけですが、彼の価値観は自分の家族さえ幸せなら良いというもので、だからこそ悲劇が起こるわけですが、僕の感覚だと一般に演じられているジェルモンはあまりに人が良すぎると思っています。
ヴィオレッタがアルフレードと分かれることを決心したときに、一緒に泣いてしまっているジェルモンが殆どじゃないでしょうかね。でも、ここで泣いちゃうと、その後、彼が死の床のヴィオレッタを見たときに悔いるシーンのドラマ的インパクトが薄れるのです。
新国立劇場の研修所に助演としていっていた時期があったのですが、ここでジェルモンの二重唱をやったときもやはり授業の担当の先生と意見が合わずに半ば喧嘩の様になってしまった。まぁその人の授業のお手伝いをしている立場だったので僕が折れましたけれど。「イタリアではこうやっているんだ!」という理由付けでは納得できませんよね。イタリアと一言で言ったって広いし、大体それが正しいという根拠には全然ならない。
まぁとても簡単に言うと、「バリトンの役はどれも包容力のある父親」みたいに扱われるのが大変いやなのです。本当はそうじゃないから。
シャープレスに関してこの判断に至ったのは、栗山昌良先生のご意見を間接的にうかがう機会があったのがきっかけでした。最初は目から鱗、と言う感じがしましたが、考え始めるともうそうとしか思えない。もしかしたらこれが僕が役のキャラクターを「タイプ」に縛られずに考える様になったきっかけかも知れない。
話を今に戻しますと、そういうわけでブリューアー教授は、僕のジェルモンにはずっとダメを出さずに来たのだけど、ここに来てまた欲が出たらしく、土曜に急に稽古になりました。
普通の稽古の流れとしては、BOが終わったら後は舞台での通し稽古を通して、全体のバランスを見ることが優先されるべきで、この期に及んで細かい立ち稽古をするのは、歌手の疲労とか集中力という意味合いからもあまり良いことではないと思います。もちろん例外はありますけどね。
僕は、はっきり言ってあまり嬉しくなかった。この稽古で加わった要素によって、さらにキャラクターははっきりしたし、まぁそれはいいのだけど、この日に言われたことを6月、7月の稽古の時点で言ってもらっていればその時点でちゃんとやっていたし、ここまでぎりぎりになってから臨時の稽古をするとなると、僕としてもディスカッションを徹底的にして進めるというよりは、スケジュールがこれ以上ずれ込まない様に、出来るだけ能率的に稽古しようとする様になりますから、細かいところで居心地が悪いところもそのままになってしまったりします。
この稽古をするかしないかで、オペラ監督であるブリューアー教授はインテンダントや他の首脳とだいぶもめたらしいです。次の演目の「ブルーチェク氏の旅」の音楽稽古が結構入ってきているから、それに「椿姫」の稽古日程が影響されるのもいやだったのかも知れません。やれやれ。
全然関係ないけど、無料IP電話の「スカイプ」というのが結構注目を集めているみたいですね。僕も早速ダウンロードしてみました。まだ試してないけど。
1枚目の写真は「椿姫」の稽古風景。立ち稽古中に舞台奥から客席方向を撮ってしまった。
2004年9月12日(日) No.340

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