チェロと二人でリゴレット


 ブロウチェクの立ち稽古は順調に進んでいます。今週に入って場所を舞台に移して、今は第4場です。この第4場は演出のマティアス・オルダーグに言わせると一番難しいシーンで、たしかにかなりドタバタで、音楽も難しい上に動きが激しいので、これをすっきりやるのはかなり難しいです。


本来の設定は月の世界なのですが、今回のマティアスの演出では、「誰も来なくなった劇場」という設定です。で、僕の演じるツァウバーリヒトはその劇場のインテンダント(総裁)。前に日記に書いたけど、マジックハンドみたいなのを使って、えらい手が長いインテンダントなんです。ははは。
そして、写真にもありますが、舞台には客席があります。全然売れない作曲家を僕がしかりとばすところから始まり、いつもアリアを歌いたがるがじゃまをされっぱなしで不機嫌のバス歌手が出てきたり、もう笑えることは請け合い。
マティアス・オルダーグは、ドイツ中で演出をしている演出家で、今はシュヴェリンの劇場の座付きの演出家をしています。うちの劇場での「死の都市」の演出は見事でした。僕はその時フリッツとフランクを歌いました。「フィレンツェの悲劇」も彼の演出だったな。
とにかく仕事が速い人で、どんどんつけていくんだけど、結構現場での嗅覚も鋭い人で、自分の考えてきたプランがうまく行かないとわかると、結構あっさり変えてしまって、それがまたうまく行ったりするから、面白い。こういうところからも経験の豊かさがうかがえます。
こういう芝居の現場での「潔さ」みたいなことについて、最近どこかで聞いたなぁと思ったら、ラスト・サムライの監督がトム・クルーズのことを話していたときだった。よくよく考えてきた演技プランを結構現場であっさり変えてしまう、その順応力の高さに舌を巻いたというはなし。こういうのって大事ですね。
そうでなければ、よっぽど綿密な準備をする必要があるけど、僕の経験からすると、どんなに綿密に準備しても現場で変更を迫られる事って出てくるんです。その時にどこであきらめるか、どこまで固執するかというのは本当に「嗅覚」ですね。
さて、昨日おもしろいことがありました。立ち稽古を終えて翌日の稽古プランを見ていたら、うちのオーケストラのチェロのトップのルーカス君が僕を見て「お!」という顔をする。何かと思ったら、数日後にオーディションがあって、そこでリゴレットのアリアの最後のチェロ1本で伴奏するところを弾くらしい。で、「このアリアはTeruの声でイメージがついてるんだよなぁ」とかいうから、「なんなら歌ってやろうか?」ということになり、オーケストラの控え室で二人でいきなりリゴレットのアリアを室内楽してしまいました。えらい感謝されたなぁ。今度ビールおごってもらうことにした。でもこういうのって、劇場生活ならではの体験なので、楽しいです。
でも、そのオーディションで彼がうまく弾いて合格となれば、うちの劇場を去ると言うことだと想像するので、それはいかにも寂しい。かれはR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」でソロを弾きましたが、これが本当に素晴らしかったんです。いいチェリストです。ドン・ジョヴァンニやフィガロでは通奏低音を弾いてくれています。
2004年10月12日(火) No.349

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