「フィレンツェの悲劇」無事に終了しました。



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いやぁ本当に大変でした。色々な意味で。
まず、役が大変。音楽的にオペラ全体の80%強を一人で歌いきる役であるというだけでなく、重い役です。音域的にも中音域が多いのにオーケストラがむちゃくちゃ厚い。これはクリスティアンがとても上手に料理してくれたけれど。
そして80%強を歌うと言うことは、80%強の芝居を僕が引っ張っていくと言うことです。これがまた大変。次から次へと展開していく構成なので、ゆっくりと気持ちを切り替える暇が全然ないしね。


そして、今回の演出はすごいSMプレイの連続だったわけで、台本の設定にない部分で沢山芝居を加えなくてはいけなかった。そして何しろ女装をはじめ、鞭、鎖、ラップ、ろうそく、コスプレの各衣装、ワイン、血糊、ナイフなど、小道具が非常に多いプロダクションでした。極めつけはビデオ。ライブで中継されて舞台奥に映写されているので、下手な取り方は出来ないし、プロンプターボックスや指揮者を撮るわけに行かない。場合によってはコンセプトに直結した重要な映像を撮影しつつ歌わねばならず、これはかなり神経を使いました。


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で色々なことがかなりうまく行ったと思います。お客様の反応、特に最終日の盛り上がりはすごかったです。来てくださった皆さん、本当にありがとうございました。
演出家のカロリーネも特に最終日の出来はとても満足していて、「フィレンツェの悲劇」が終わって休憩になったところで「自分が演出したプロダクションの中でベストの一つだ!」と興奮してしゃべっていました。彼女らチームは今日成田から飛んだはずです。次はウィーン国立歌劇場での「妖精ヴィッリ」で、お相手はホセ・クーラだそうです。
今回共演させていただいた、ビアンカの林正子さん、グイドの羽山晃正さんは二人とも同世代の歌手で、3人で本当にこの無茶(?)な演出コンセプトの中に文字通り飛び込んでいくことが出来た。3人とも同じ気持ちだけど、この3人でなければこういう成功はあり得なかったと思う。ビアンカの林正子さんは同じ門下の後輩なのでずっと「コモリ先輩」と呼ばれ続けていたのですが、これって稽古場ではなんだか違和感があるんですけどね。彼女は「オペラのプロダクションが終わって寂しいと感じるのはこれは初めての体験」と話していました。
まぁごらんになっていない方にはわかりにくいかと思うので、写真を載せました。こういう衣装です。はい。文字通り裸のつきあいの6週間でした。僕がグイドに殺意を感じてからのくだりを見た人が、「小森はSの気がある」とか「羽山氏への殺意は本物だ」とか色々おっしゃるんですが、まぁそれくらい役になりきっていた、役として見えていたという風に理解しておりますです。
やっぱり本番が近づいてきて、通し稽古が多くなると演じているときのテンションも上がってきて、アドリブも多発します。ろうそくの火を手で消すとか、本番2回目では羽山氏演じるグイドを足で踏みつける芝居をしちゃったんだけど、これらはそういうテンションから自発的に生まれてきた芝居でした。
でも、羽山さんも林さんも、何やっても怒らないどころか、普通の人なら嫌な顔しそうな芝居でも、役のキャラクターに貢献することは率先して受け入れてくれたんですね。正子ちゃん、羽山さん、本当にお世話になりました。どうもありがとう。
昨日の打ち上げでは色々な人と話せて面白かったんだけど、特に衣装家のヘンリケ・ブロンバーと長々話してしまった。日本のスタッフの素晴らしさには本当に感服していました。僕も思っていることだけど、日本の舞台スタッフは世界一だと思う。とにかくモチベーションがもの凄く高いし、責任感、仕事内容ももちろん。月給取りとして劇場で働いている舞台スタッフとは比べものにならない熱意です。これはヘンリケも強調していた。
舞台稽古が多くできない日本の土壌だからこそこういう優秀なスタッフが育成されてきた、という事はあるんでしょうね。あの素晴らしいスタッフなしでは、たった2回の舞台稽古でこのプロダクションの幕を上げることは不可能だったと思います。
そして、オーケストラが素晴らしかった。もちろんクリスティアンの力あってのこと、という事は言えるのでしょうが、日本のオーケストラのうまさ、正確さに加えて音色の豊かさと音楽の振幅の大きさがあって、本当に素晴らしい演奏をして下さいました。僕は新日本フィルとは始めてご一緒させていただいたのだけれど、是非また一緒にお仕事させていただきたいです。オーボエとフルートのトップがそれぞれ良く知っている友達なんですが、彼らとも稽古中、本番後なども話しました。オペラの経験があまりない分、このプロダクションはとても楽しんだようです。公演後に全く面識のなかったオーケストラのメンバーの方が楽屋にわざわざ来て僕の演奏を褒めてくださったりしたこともあって、これは感激しちゃいました。
「フィレンツェの悲劇」のプロダクション全体のことは、またエッセイに書きたいと思うので今日は簡単に事後報告のつもりで書いています。(といいながら後でエッセイを書かなかったこと、良くありますが・・・)だから指揮のクリスティアンと演出のカロリーネのことなどは、今日は書かないでおきます。
今は8月5日の第九と8月10日のデュオ・リサイタルに集中しなくちゃね。あと、明日はインタビューもあるし。

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