午後の曳航ツアー、最後の本番

トリノで、「午後の曳航」ツアーの最後のコンサートを歌ってきました。今回はベルリンの時にもましてタイトなスケジュールだったのですが、また落ちが付いてしまった。ついて欲しくなかったんだけどね・・・。それもあって、今ちょっと体調が崩れております。

image

ベルリン公演の次の日、一日遅れて僕にとっての2006/2007シーズンが始まりました。9月17日にプレミエを迎えるショスタコーヴィッチのオペレッタ「モスクワ、モスクワ!」(「モスクワ、チェルヨムシュキ」)の立ち稽古を9月4日までやって、9月5日コンサートの当日にトリノに向かいました。4日の夜の練習がアルテンブルクでの舞台稽古だったのですが、それが9時過ぎまであって、ゲラの我が家に帰ってきたのは10時。翌日の飛行機はライプツィヒの空港から9時だったので、6時には家を出ました。


数日前にベルリンに車で行ったときに、ライプツィヒの手前ですごい工事渋滞があったので、それを警戒して少し早めにでたのですが、朝早かったこともあって全然渋滞にはなっていませんでした。よかった。
今回のトリノのコンサートは21時に開始で(イタリアって公演の開始時刻が遅いですよね)終わったら夜中で、次の日の帰りの飛行機は朝6時にでるので、イタリア土産を買うつもりなら練習の前に買っておかねばならない。というわけで、昼過ぎにトリノについて、昼ご飯を他のソリストと落ち合って食べた後は買い物に行きました。
といっても、行った先はスーパーマーケット。欲しかったのは、イタリアでは普通に売っているけどドイツでは手に入りにくいもの。バルサミコ、その土地のワイン、トリノ名物といわれるグリッシーニ、エスプレッソの豆など。無事に購入してホテルに戻り、しばしの休息。どういう訳か、この時に普通に休んでおけば良かったのに、風呂に入りたくなっちゃって、入ったんですけど、これが良くなかった。毛穴が開いちゃったのか、何時間経っても汗が止まらない。18時半からの練習、そして21時のコンサートの時間になっても、汗がどんどん出てくる。そして、コンサート会場のイタリア国営放送RAIのAuditoriumはものすごく冷房が効いていて、僕らの衣装は上着なしのシャツ一枚。うーん。こまった。汗が冷えて風邪をひくのは明白・・・。
歌わないとき、僕らは歌う舞台中央でなくて別の場所で椅子に座って待機するのですが、ザルツブルク音楽祭とベルリン公演では舞台はじだった待機場所が、ここトリノでは階段を下りて客席の一列目になっていたので、あまりお客様の目にもつかないし、待っている時用に背広の上着を置いておきました。
でも、お客さんが入るとそれほど寒くもなく、歌っていると体が温まりますから、これはそれほど問題ではなかった。

image

さて、コンサートはこの最終回も同様に大成功でした。演奏の質としてはこの3回目が一番良かったと思います。マエストロ・アルブレヒトも「エクセレント!!!」と大喜びしてらっしゃいました。ベルリン公演に来られなかったヘンツェ氏も満足そうでした。カーテンコールで拍手が鳴りやまず、マエストロ・アルブレヒトについて行って、僕らソリストも客席のヘンツェ氏のところに行って一人ずつ握手をして来ました。満足そうに微笑んでいらっしゃいましたよ。
 
さて、ザルツブルク公演とベルリン公演の批評記事がかなり出たようで、エージェントからコピーをもらいました。ドイツの批評記事のたいていがそうであるように、作品の説明などに多くの文字数が費やされ、演奏に関してはあまり多く触れられていませんでしたが、例外なく好評で、かえって日本人からの感想に演奏に対して、特に日本人歌手に対してネガティブなものがありましたね。今に始まった事じゃないですが、こういう傾向ってあるんですよね・・・。新国立劇場で外人キャストの日ばかりチケットが売れて・・・その外人キャストが良い歌手であろうと無かろうと・・・しまうのと同じ傾向だと思ってしまいますよ。十把一絡げにするのはいけませんが、欧米尊重主義というか、欧米コンプレックスというかね。僕は自分がキャストに入っているので、ある部分自画自賛になっちゃいますのでこれもまずいかも知れないけど、エージェントもオーケストラの人もヘンツェもマエストロ・アルブレヒトも、僕が接した観客の殆どが、今回の我々歌手陣の仕事ぶりを絶賛していました。とても良い仕事をしたと思います。それでもソプラノは誰もがネトレプコのように、バリトンは誰もがハンプソンの様に歌わないと「不合格」になっちゃうんですかね。
判断基準というのは一つじゃない、一つでないべきだと思うんだけど、どうも一つの物差しにこだわって、それを一流とし、一流でない場合は「バツ!」にされてしまう、言ってみれば一流や超一流の人の演奏を基準にして、そこと比べて何が足りないかという減点法で見ている様に見えますね。それはその時点で、自分の目の前にいる演奏家の美点を見いだして楽しむという権利を放棄しているわけで、なんともったいない、と思っちゃうんですけどね。まぁこんなもの、歌い手の戯言かも知れません。どうぞお気になさらず・・・。
 
曲に関しては、色々書きたいことがあるんだけど、何だかまとまらないので、もしまとまったらエッセイにでも書こうかな・・・って、もうエッセイを書かなくなって久しいな・・・。時間がないんだもんね。
でも、本当にこのプロダクションに参加させていただいて感謝しています。何度か書いているように本当に気持ちの良いメンバーばかりで、大変快適に仕事させていただきました。フリータイムも一緒に行動できたし。ササヤにもみんなで行けたし!(こればっか)
 
それと別の意味で、やはり現代音楽とはどういうものか、どういうスタンスで僕が向き合ったらいいのか、この作品を演奏することを通じてだいぶわかったんです。どうも今年は現代物の仕事が多くて、9月9日、10日の劇場のガラ・コンサートでも一つあるし、来年の4月にはまた初演のオペラがあるし、5月、6月もあったんですよ。
その前にも少しはやっていて、例えばヴォルフガング・リームの傑作「ヤコプ・レンツ」の日本初演プロダクションでもタイトル・ロールを歌わせていただいたし、ゲラでも「第六の時」という初演オペラがあった。どれがどうとは言いませんが、やはり作品の中に確固たるスタイルを持っている作品とそうでないものがあって、この「午後の曳航」は間違いなく前者です。
ドイツの批評記事を見ていてわかったんですが、ヘンツェ自身が「自分のここ20年で一番の作品だ」といっているそうです。僕は実はヘンツェの他の作品をあまり知らないけれど、これはわかります。特に最後のフィナーレはすごい。普通に考えると声楽作品なんだから、声楽的に強い音域=高音でパワフルに終わろうとするのが普通だと思うけど、男性だけ6人のアンサンブルで、全員が中音域でクレッシェンドして終わるこの最後は得体の知れない迫力があります。ボエームじゃないですが、観客に拍手を強要するような力強さがあります。
そういう素晴らしい作品に出会えて、しかも素晴らしいオーケストラと作曲者のスタイルを知り尽くしている指揮者と共演できて、現代音楽とはこうやれば仲良くなれるんだな、というのがわかってきたのです。マエストロ・アルブレヒト、僕に声をかけてくれて本当にありがとう。
 
そう、「おち」のことを書かなくちゃね。
最初に書いたように、コンサートは23時半くらいに終演して、でも僕は4時にはチェックアウトしなくちゃいけない。やはり少しは眠りたい。12時から立ち稽古ですからね。でも、せっかく仲良くやってきたみんなと別れを惜しみたいし、でもどうやら風邪を引きかけているようで・・・すごい葛藤しましたが、レストランまで一緒に行ったけどやっぱりホテルに帰りました。みんなは結構盛り上がったみたい。うーん。うらやましい。
そして、荷造りをして0時半くらいにはベッドに入ったかな。で3時45分に目覚ましをかけて起きました。4時にチェックアウトして4時15分にはタクシーに乗って空港へ出発。

image

4時40分くらいに空港に着いたら、なんと飛行機が遅れるとの表示。6時5分の飛行機が8時45分に飛ぶ予定だとか・・・。なんなんだよー。もっと寝ていられたじゃんか。大体稽古に間に合わないよ!でも、これはもう仕方ない。で、他の接続なども見てもらったのですが、結局遅れてもその飛行機に乗っていった方が早いことがわかり、フランクフルトからの乗り継ぎ便を変更してもらう。あーあ。眠いけどベッドはない・・・。
 
でもね、一つだけ、これによって得をしました。僕の勘違いでなければだけど。
9月からサッカーの大黒選手がトリノに移籍しましたよね。で、僕はまりさんとかに「トリノで大黒選手を追いかけてきた日本人プレスにあったりするかもよー」なんて言っていたんだけど、なんと!大黒選手本人に会っちゃった!わーい!(ミーハー)

image

よっぽど、握手してもらおうかとかサインしてもらおうかと考えたんだけど、もし人違いだったらなーとか(まずあり得ないけどね)考えちゃったりして、結局勇気がでませんでしたー。残念。僕、大黒選手大好きなのにー。やっぱり声をかければ良かった。2Fのカフェでコーヒー飲んで、カフェのねーちゃんに「Grazie!」とイタリア語で言っていましたよ。なんか悔しかったので、そのカフェの写真だけ後で撮りました。(なんにもならんて)
もし飛行機が予定通りに飛んでいたら会えなかったので、まぁ一つは得をしたかな、と。でも彼はどこに飛んだんだろう?
 
トリノの空港で3時間余計に待ち、空港到着4時間半後に飛び、フランクフルトでも接続が悪くて3時間半待ち、ライプツィヒの空港についたのは、ホテルを出たきっかり12時間後でした。飛行機の中は乾燥しているし、元々悪かった体調は悪化・・・。翌日は「モスクワ、チェルヨムシュキ」のピアノHP、そして週末はゲラ、アルテンブルク両方でシーズンのオープニング・ガラコンサート・・・。そして休み無く突入する次の週は舞台オーケストラ稽古、HP、GP、プレミエと続くのでした・・・げろげろ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です