今年のデュオ・リサイタルが近づいてきました。今年は、僕が歌う曲はR.シュトラウスの歌曲のみ。大好きなこの作曲家の曲をこれだけまとめて歌えるのだし、少しサイトでも前もって別のアプローチをしようかと思っていました。
結局時間がなかなか取れずに今になってしまいましたが、これから本番までの約2週間の間に、出来る範囲で曲目の解説をかねて、プログラムへの思い込みなどを先月に歌ったゲラでの歌曲の夕べの演奏サウンドも交えて少し語ろうかと思います。第一回の今回は、プログラムの第一曲目「Heimliche Aufforderung」〜密やかな誘い〜と、「Freundliche Vision」〜慕わしげな幻影〜です。
この曲との付き合いは長いです、本当に。学生時代からずっと歌っています。R.シュトラウスの歌曲としても有名な部類だと思いますね。良くうたわれますし。
僕が作っている字幕の台本を少し紹介しましょうか。
さあ、きらめく杯を君の口元へ!
この楽しい宴で心を晴らそう
君が僕にこっそりと目配せすれば
僕も微笑んで静かに杯を空けよう
周りの連中を眺めてごらん
この酔っ払いのおしゃべり達を
でも彼らを軽蔑する事はないよ
輝く杯をあげ、ワインを飲み干そう
この人たちをこの喧騒の中に
幸せにしておいてあげよう
でも君がこの宴を十分楽しんだら
やかましいこの場をを後にしよう
バラの茂みのある庭へ出ておいて
いつもの様にそこで待っているよ
・・・・
まだ続きますが、大体どんな歌かわかっていただけると思います。要はパーティーの最中にある男性がある女性を口説いているわけですが、この口説きが粋なんですよね。
絢爛豪華きわまりない・・・ピアニストは大変指が忙しい・・・音楽で、きらきらした音の粒がまるで見えるようです。7月のゲラでの歌曲の夕べの録音をちょっとだけ聴けるようになっています。別ウィンドウで音声ファイルが開きます。(もしWindows環境などでうまくいかなかったらその旨フォームメールから教えてもらえますか?すいません)
最初のピアノ部分は、なんと七連符とかがあって、演奏するのは大変。次々に繰り返される転調も演奏者にとっては大変なわけですが、これがこの誘惑者が如何に手練手管に長けているかを音楽的に示しているわけです。
この「密やかな誘い」をもって、僕らも皆さんをこの日のR.シュトラウスの世界に誘いたいと思い、この曲を最初の曲に選びました。
さて、もう一曲は「Freundliche Vision」〜慕わしげな幻影〜です。
音声ファイルはこちらです。
この曲は、まだ字幕の台本作っていません・・・ははは。乞うご期待。
・・・と思ったけど、どちらにしても作らなくちゃいけないんだからと、今訳しました。ぜいぜい。
僕がそれを見たのは夢の中じゃない
明るい日差しの中、目の前に現れた
一面の雛菊と深い緑の中の白い家
葉の影からのぞく神々しいものの姿
僕を愛するあの人と連れ立って
冷ややかな白い家に入って行く
そこで僕らを待っていたのは
溢れんばかりの安らぎと美だった
僕を愛するあの人と連れ立って
美に溢れた安らぎの中へ・・・
音楽的には、本当に夢のような穏やかで美しい曲です。風が全然ふいていないような、漂うようなイメージの曲です。
詩だけ見ていると、死を意味しているのかな、と思えなくもないですが、音楽の中にはそういうメッセージは聞こえてきません。少なくとも僕の耳には今の時点では。
お話が進んで行くタイプの「密やかな誘い」と対照的に、これは情景を描写しているようなタイプですね。僕らの演奏のなかで、お聴きになる皆さんの心にイメージされる情景は、一人一人でかなり違ってくるのではないでしょうか。それぞれの聞き手の今までの人生や、体験などから、この言葉と音楽が換気するイメージは十人十色と言うことだと思います。
歌曲演奏では、オペラよりもイメージを具体的に伝えるよう努力するのがセオリーと思って来ました。今でも基本はそうだと思うんですが、こういう曲では変に具体的にストーリー展開を恣意的に運ぶことがもしかしたらマイナスになるのでは?と最近考え始めています。
さて、8月21日のデュオ・リサイタル、チケットの方はまだまだ余裕があります。もともと、この第一生命ホールは大変大きなホールなので、借りた時点でこのホールをいっぱいにできるとは考えてはいませんでした。僕の日本帰国時期がなかなかはっきりしなかったこともあったりして、ちょうどよいサイズのホールが押さえられなかったりしてね・・・。
なので、チケットが売り切れる心配はないのですが、ステージ近くの席から埋まってきていますので、お早めにお申し込みくださいね。こういう親密なものを演奏するときはやはり近くで聴いていただきたいですから。
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