昨日は13回目のトスカの本番でした。カヴァラドッシを歌っているテノールのリカルドが、どうもスケジュール調整がうまくいってないと言うことを、前回の本番の時にぼやいていました。彼は今、ニュルンベルクの専属なのですが、ゲラの劇場の制作とニュルンベルクの劇場の制作で直接交渉して彼のスケジュール調整をしているのに、劇場から彼の方への連絡がちゃんとしていないのか、調整自体が失敗してるのかよくわからないらしく・・・。前回の本番の時なんか、前々日になって「リカルド、明後日はゲラでトスカだよ」みたいなこと言われたらしい。まじですか?ってかんじですよね、これは。
もっとも僕も、今回は3日前になるまでトスカの本番が金曜日にあることを忘れていて・・・専属をやってるとこういうのがまずいですね・・・。もうちょっと先の予定までちゃんと把握しておかないとなぁ。
まぁいいや。これは別の問題ですから。
で、この5日の本番は、リカルドはやはり歌えないようで、別のテノールが代役としてきました。チリ人のドレーゴ氏。多分年齢は僕と同じくらいでしょう。以前にエアフルトでカヴァラドッシを歌ったとか。オペラデビューが、故郷のチリのサンチアゴでの椿姫のガストン子爵だったそうですが、その時のアルフレードが市原太朗さんだったとか、ダルムシュタットでは3年間専属で歌っていた頃にバスの松位さんと一緒だったとか、いろいろ話してくれました。カヴァラドッシとは楽屋が一緒だからね。
で、午前中に彼と段取り合わせの稽古がありました。本番の日の午前中の稽古はありがたくないけど、まぁこういう緊急事態では仕方ない。しかも、よく考えたら、この日のトスカはいつものポーランド人ソプラノのルツィアではなく、イタリア人のカビュシーヌだった。(会うまでそれも忘れてた)
彼女とは本番は一回しかやってなくて、それも5ヶ月前だから、段取りが違うところは結構不安があると言えばある。カビュシーヌの方も心配なようで、一応僕の死ぬ場面だけは一度やっておきました。
本番は、いつもにも増してゆっくり目のテンポでしたが、芝居的には順調に進みました。途中まではね。僕はトスカが有名なアリア「歌に生き、愛に生き」を歌っているあいだに服を脱いでいくんですが、ベストを脱いで、シャツのボタンを外している時に、シャツにもう血のりがついていることに気がつきました。栓が緩んでたんでしょう。本当はさされる直前に僕が後ろを向くところがあるので、そこで栓を抜く段取りになってるんです。
「ありゃー」と思ったんだけど、冷静になってみると、僕がベストを脱いでからまだ十秒くらいしか経っていないし、ほとんどの人はアリアを前で歌っているトスカをずっと見ているはずだ、と気がつきました。で、ゆっくり脱いだベストをもう一度拾い上げて、袖を通しました。そのままの姿勢だと、もし誰かが僕を見ていたとしたら、脱いで、また着て、という動作に見えるので、水槽(ニシキゴイがいる)に後ろ向きにもたれかかったりして、ちょっと雰囲気を変えておいて。
それで、その後は段取り通りで、後ろ向きにトスカに「トスカ!ついに俺のものだ!」と叫ぶ時に、大仰にベストを脱いで放り投げました。
血のりは、その時によって出たり出なかったりなんだけど、この日はすごい勢いで出ましたよ。
何とか機転を利かせられてよかった。僕がトスカのアリアの後、ずっと血がついたシャツで歌ってたら、お客さんとしてはかなり気分をそがれたでしょうからね。
カヴァラドッシのドレーゴ氏。いい声でした。上もちゃんと出るし。でも、僕の好みから言うとリカルドがやっぱり好きだなぁ。リカルドのカヴァラドッシが如何に素晴らしいか、逆に思い知らされる思いでした。ドレーゴ氏も沢山ブラボーもらってたし、良かったんだけどね。
カビュシーヌは、さすがイタリア人と言う感じで、言葉の持っていき方に切迫感があるし、レガートがうまい。それと、芝居が自然(ありきたりの表現ですが)で、僕としてはとても相手がしやすいんです。何か違うことをされても、あまり考えずにあわせられる。彼女も僕に関して似たことを感じているようで、最初は1幕の僕とのシーンが一番苦手なシーンだったのに、今は一番やりやすいシーンになってると言ってました。こういうの、嬉しいですね。
お久しぶりです。ロドリーゴが歌いに来ましたか…。彼とはもうかなり長い間お互いにご無沙汰しています。ダルムシュタットで一緒に歌っていた時はリリックテノールだったんですよね。彼の性はオッレーゴ(Orrego)と言います。エアフルトでトスカのプロダクションが有るって知った時、見に行こうと思っていたんですが予定がつかなくて残念でした。エアフルトでトスカを歌っていたソプラノも知り合いだったから尚更残念でした。栓を外して出す血のりというのは私はまだ使ったことがありません。Blutkissenというのを使うことが多く、栓を外して…というのは 何か一杯血が飛び出しそうな気がしますけれど どんな感じなのでしょうか。
>astraさん
こんにちは。こちらこそご無沙汰しています。
そうですか、彼の名前まちがえたかな?楽屋のドアにはDorregoと書いてあったような気がしますが、確認してみます!
カヴァラドッシを立派に歌っていましたが、声自体は甘い、リリックな感じを残していると思います。どんどん重い方にいくと言う感じはしませんね。
スカルピアの場合は、2幕はずっと舞台にいるので、今回のように途中で血が出始めてしまうとまずいので、栓があるものを使っています。点滴の液体の入っている袋のような感じです。
派手にでるように、倒れる時に左胸を強く床にぶつけるように努力しています。