思ったより大変でした、ピンチヒッターって・・・。甘く見ていたつもりはないんですけどね。いろいろ考えさせられました。
DVDを送ってもらって、何度も見ておいたんですが、やっぱり見るのとやるのは違うし、それよりなにより、ゲラでのオルダーグ演出があまりに深く入っているのに今更ながらに気がつきました。そこから抜け出すのが大変でした。
特に、僕の場合はゲラでのオルダーグ演出にすごく納得できているので、DVDを見た時からそうなんですけど、このハーゲンの演出にすっと入れないんです。納得がいかないというか、批判的精神が先に働いてしまう。でも、この場合、そんな安っぽい批判的精神は何の助けにもならないし、それによって誰も得をしない。これに気がついたのは金曜の夜の稽古が始まってからでした。
一応ね、根がまじめなので、DVDみて動線を付箋に書き込んでスコアに張ったりして、いろいろ作業はしていたんですよ。で、動線は何となく頭にはいってきていたんだけど、その動きの動機がはっきりしない。何故動くのか判らない動きはやっぱり覚えられないんですね。そういう状態で自宅での準備を終えてハーゲンに行った。
430kmくらいのドライブでした。まぁまぁ順調だったんだけど最後に一ヶ所道を間違えて、余裕で着くはずだったのが結構ぎりぎりになってしまった。で、稽古前にもう一度DVDを見る時間はなく、劇場へ。
まずは衣装合わせでした。ゲラの劇場から僕のサイズは届いていて直しも終わっていたので、来てみたらぴったりでした。問題はカツラ。でもこれもうまく合うのがあって、結構スムーズにこの変の段取りは終わり。
トスカはハーゲンの専属のソプラノ、ダグマー・ヘッセさん。僕と同じくらいの年だと思う。ハウスの専属にトスカを歌える歌手がいるというのはたいしたもんだ。
ハーゲンに7年目とかで、一つの専属で7年もいるとねー、あなたも判るでしょー、みたいな世間話をしたりして、さて稽古でありました。
話を戻しますが、ここで僕が困ってしまったのは、この演出に入っていけない事でした。演出コンセプトが違うのは当たり前だし、僕は時間をかけてオルダーグ演出と関わったわけだから、それと同じような納得を出来るわけもないんですよね。
・・・そういう話の上で敢えて二つの演出と比べると、僕はやっぱりオルダーグ演出の方がずっと作品の深みに光を当てていると思う。僕はこのマティアス・オルダーグとこのプロダクションをやれて、本当に幸せだと思った。スカルピアに関して言えば、単なる悪者になるか、悪者の彼が本音を吐露している部分、弱みを見せている部分(警視総監になって8日目のプレッシャーとかね)が、スカルピアという人間像をはるかに興味深いものにしていて、今からクリスマス休日の公演が楽しみです・・・
でも、今はこのハーゲンでのボロフチャクさんの演出をやらなくちゃいけない。ここでは本当に留保なしにこのコンセプトを受け入れる事が必要な事が途中で判ってきました。それが判って気持ちを切り替えた後は少し楽になりましたが、最初っからこのモードでやるべきだった。
シュタイナーも、何かを理解する時は部分的にでなく全てを受け入れる事が必要だという事を書いていますが、それは本当だと今回も思った。
ゲラの劇場に来るピンチヒッターも・・・例えばこの間はカヴァラドッシがそうだったけど・・・結構「いや、僕はここは譲れない。僕の解釈と違うから」みたいな事をいって、演出を受け入れない人がいるんですね、時々。僕はまぁ日本人だし、そういう主張をする事で和が崩れれば演出自体の表現力が落ちる事は分かり切っているので、ハーゲンでもそういう事を言うつもりはさらさらなかった。でも、内面で納得してないまま演じるのは同じ事なんですね、ある部分。それを思い知らされました。
ある意味では、自分のスカルピアに関する解釈は捨てなくてはいけない部分もある。でも、そうしないと、この「枠」がくずれてしまう。枠とはこの場合演出の事ですね。そして、ハーゲンの劇場のみんなが一丸となってこの枠を準備してきたわけで、僕にこれを邪魔する権利はありません。大体、チープな芸術的良心でこれに反逆しつつ自分のスカルピアを演じぬいたとしても、まわりの人物像やリアクションとかみ合わない舞台を見せられて、一番割を食うのはお客さんです。これだけは絶対にあってはならない。
指揮はGMDのアントニー・ヘルムス氏。オランダ人で若いGMDでした。すごく感情豊かな棒を振る人で、コンタクトもばっちりだし、素晴らしかった。すごく快適に歌えました。彼もすごく気に入ってくれたので、また一緒に何か出来ると良いなぁ。
ちょっと意外だったんだけど、2幕の後にカーテンコールがなくて、3幕が終わるまで待ってのカーテンコール。スカルピアは2幕終わりで一人のカーテンコールをして、最後はもう出ないってのが良くあるんだけど。でもブラボー沢山もらいました。プレミエがあいた後の第二公演だから、結構盛り上がりも合ったんでしょうね。ダブルキャストの裏の人たちは、この公演が最初の本番でしたしね。
最後はスタンディング・オベーションになっちゃって、何度も何度も幕を開け閉めしてました。これはここの劇場では珍しい事だと、劇場の人たちが言ってました。
まぁとにかく無事に終わって良かった。段取りを間違えたところはほとんどなかったし。
来年2月の「ワルキューレ」公演チケットを購入したご縁で小森さんのお名前を知ったワーグナーファンです。大好きなオペラなので今から楽しみにし、いろいろ予習しています。昨日からカイルベルトのバイロイト音楽祭ライブ(1955)をききはじめましたが見事です・・。実演では、前回の二期会上演(’96・7)にも伺い緑川まりさんの日本人離れしたブリュンヒルデ、岩井理花さんのジークリンデ、大野さんの若々しく颯爽とした指揮が思い出に残っています。記憶が曖昧だったので調べたところウオータンは多田羅さんだったようです。その後内外でいろいろ見ましたが、特にウィーンできいたジェイムズ・モリスのウオータン、ヴイオレッタ・ウルマーナのフリッカは素晴らしかったです。最近では新国の有名なの(2002)がありましたが、今度は、小森さんが難役ウオータンをどう料理(?)されるのか期待しております。
>川口市のわぐねりあんさん
こんにちは。書き込みをありがとうございます。
カイルベルト版は僕は聞いた事がないのですが、やはりホッター先生のヴォータンですね。素晴らしいでしょうね。二期会の前回の公演は僕は留学中で聞き逃しています。
僕がどう料理するか・・・というより、変に料理されてしまわないように頑張らなくちゃ、と思ってますが・・・。
僕はヴィーラント・ヴァーグナーとサバリッシュ先生の再現創造へのアプローチに心酔しております。実際の舞台に触れるチャンスはありませんでしたが。このお二人の姿勢に少しでも近づけたら、と思っています。