日曜日には「コジマ」のアルテンブルク市立歌劇場でのプレミエ、月曜はハーゲン市立歌劇場のプロダクション「トスカ」にスカルピア役で客演してきました。ワルキューレのあとゲラに戻ってからもう3つのオペラを歌ったわけだ。でも、以前に比べて、こういうのにだいぶ慣れてきている事を強く感じました。並行してローエングリンも稽古してるわけだから4つか。
日曜の「コジマ」プレミエには作曲者のマットゥスさんもまたいらっしゃいました。元歌い手の奥様はゼンタなどドラマティック・ソプラノの役をお歌いになっていた方なのですが、ヴォータンを歌った後に僕の声が一体どうなっているかに大変興味を持っていらしたとの事。今回のコジマでの僕の歌いぶりには大変満足して下さったようです。
ヴォータンを歌った事で声が太くなっている事は間違いなく・・・「太く」と言う表現は一面的ですが・・・この今の状態をパーマネントな状態として維持するのか、少し戻すのか、その辺はもう少しいろいろ試しながら考えようかと思ってます。技術的な事ですけれど。
「コジマ」を歌ってはっきり感じたのは、強声での響きの充実もありますが、弱声の処理が以前よりずっと楽になっている事です。これは意外ではないんだけど、逆に理論的にそうであるべき事がきちんと起こると驚く事ってありますよね。そういう感じがします。一般的な感覚からしても、ドラマティックなものを歌うようになって弱声がうまく行く、というのが意外に思う向きがある様で、インテンダントのマティアス・オルダーグからもこの点で質問されました。でも良いワーグナー歌手は例外なく弱声のコントロールが良いから、やはり技術的にうまくいくとそうなるべきなんだと思うんですけども。今回は芝居、踊りなども、以前よりずっとすっきり出来たと思います。稽古が少なかったから、かなり冷静にならないと処理できない状況で、それが逆に良かったのかも知れない。体力的にはきつかったですけれど。
日曜の夜の公演で、しかもプレミエのパーティーに主役としては顔を出さないわけには行かず、少し顔を出し、帰ってきてから荷造り、月曜の朝に発ってハーゲンへ。
今回のトスカは12月にピンチ・ヒッター賭して歌ったプロダクションですが、場所は別のところ。ハーゲン市立歌劇場の引っ越し公演でデュッセルドルフ郊外のViersenという街のFesthalle(祝祭ホール)というところでした。空間的にはそんなに大きくないんだけど1000人くらいはいるそうで、ハーゲン市立歌劇場より客席数は多いわけですね。
舞台が若干小さいので、立ち位置の変更とかいろいろあるんだけど、稽古は一切なしでした。怖いなぁと思いながらも、自分で小道具も含めてチェックをして、万全を期しました。基本的に失敗はなかったと思う。
でも、かなり恥ずかしい感じの出来事が一つ。1幕のテ・デウムの終わりで僕は上半身ハダカになるんですが、そこで幕がしまらなかった。暗転にするとか何とかしてくれればいいのに、舞台監督も慌てたのか処置をせず、僕はとにかく指示があるまでハダカでねっ転がって待ってるわけです。これが結構長かったんですよ。あまりにも長くなったので自主的に退けましたが、カッコ悪かったです。しかたないけど。日本だったらスタッフがすっ飛んできて謝るって感じの状況じゃないかと思うんですが、もちろん誰も来ないし演出助手は声立てて笑ってましたね。こういう違いにも慣れたなぁと思います。10年以上かかって慣れたって事だろうか。
前の週に軽い喉頭炎になって、熱は出なかったものの声帯まで炎症が広がらないか、かなり冷や冷やしながらローエングリンの稽古をしていましたが、一日半溪子は休ませてもらいました。そこではっきり回復したので良かった。咳が残ってしまって今でもまだかなり咳がでるんですが声帯は大丈夫でした。
ハーゲンに向かって車を運転している途中、200kmくらい走ったところで、買っておいたパンを食べていたら、口の中でものすごい音がして、パンに何か硬いものが混じってたのかと思ったらそうじゃないみたい。よくよく調べて見ると、奥歯が割れていました。とれてはいないけど指で触るとずれるんです。
鏡で見て見たら、ほとんど真っ二つと言う感じで右と左に割れていて、本当にびっくりした。以前に神経を抜いた歯だったので痛みはなかったのですが、そんな状態で一体スカルピアが歌えるのか心配になって、ゲラのいつも行っている歯医者に電話したら、多分、それほど急がなくても大丈夫だからゲラに戻ったら来て下さいとの事。そんなもんだろうかと思いながら、一応安心する事にして歌いました。
今日ハーゲンから戻ってすぐに歯医者に行きましたが、歯根までは割れていなかったので、抜かずに済みました。歯根まで割れていたらすぐに抜いてインプラントかブリッジか、というところだったようです。カルシウム不足とかそういう事があるのかと思って詳しく話を聞いたんですが、僕の場合は、この奥歯が歯根の細さに比べて面積が広い歯で負担が大きかった事、多分この歯の側だけで主に噛んでいてやはり負担が大きかった、神経を抜いていていわゆる死んだ歯であった事で比較的もろくなっていたなど悪条件が重なったようです。
割れた部分を取り除いて、その横の歯茎の回復を待ち、二日後に閉じるそうですが、今はこの歯が半分の状態です。その状態でローエングリンの稽古に行ってきました。あとインテンダントとのアポイントもあったんだった。今シーズンを振り返っての話を聞きたいとかで。
ローエングリンの方は、もう2幕に入っています。今日は二幕最後の5重唱の辺りをやりました。何とか暗譜は間に合いましたね。冷や汗かきましたけれど。今日もハーゲンからの帰りの車の中でずっと暗譜暗譜、でした。去年の12月に買ったカーナビのおかげでドライブは大変楽でした。ALDIというスーパーの出している製品ですが、安価なのに大変に使い勝手が良く、評判が良かったのでこれにしました。正解でした。