あと約2週間で、2007/2008年シーズンも終わり、待望の夏休みとなります。・・・といっても僕の場合は全然夏休みは休みじゃないですけどね。劇場の同僚の多くは夏休みの旅行の準備に結構頭が行ってるんじゃないかな。
それを横目に僕は空いてる時間を使って日本でのデュオ・リサイタルの準備を色々してるわけですが、劇場では、Studienleiter(音楽コーチ主任)のオーディションがありました。僕はそのオーディションで相手をする歌手として参加しました。
全部で8人候補者がいると言うことだったけど、一人はキャンセル。課題曲の一つ、オペラ「ヴォツェク」が弾けないと言うらしい。インテンダントのオルダーグ氏は「なめとる!」とおかんむりでありました。確かに。ずっと前に書面で課題曲は伝えてあるわけですからね。当日にこれは出来ないってんじゃね。
そのヴォツェクのコレペティ・・・個人稽古をつけるところを審査するのが一つのオーディション項目でした。他には「バラの騎士」とか「フィガロの結婚」の一部を、歌手のパートを歌いながら弾くとか、ミュージカルやオペレッタの曲を初見で弾く、というのもありました。
僕はそのヴォツェクでヴォツェクを歌うために参加したわけですが、僕ともう一人、大尉の役のギュンター・マルクヴァルト氏に稽古をつけるのが候補者の仕事。僕らはあえて前もって楽譜を見ないで臨むように言われていました。
こういう難しい曲で、どのように歌手に稽古をつけるか、がポイントなわけです。なかなか興味深い体験でした。指揮者のオーディションとかとは全然違うわけです。そこで演奏される音楽の質は評価のポイントの一部でしかない。ピアノを見事に弾くかどうかも同様で、如何に効率的に稽古をつけるかが大変重要なポイントになるわけです。
結構結果というのははっきりするもので、7人のうち、4人はほとんど候補としては真剣に検討する対象になりませんでした。あとの3人のうち、一人は大きく差をつけられて、残りの二人のうち、どちらを取るべきかで結構オーディション後のディスカッションが長く続きました。
一人は偶然、僕がハーゲンでトスカを歌ったときのコレペティでした。顔を見たことがあるな、と思ったら。もう一人は、少し年配で、そのぶん多くのレパートリーを持っていました。
決断がどうなったかとかそう言うのは、やはりまだ内部のことなのでかけませんけれど、あんな短時間のオーディションでも、結構その人の音楽性だけじゃなくて色々見えるもんなんだな、と感心した次第です。
うちの劇場の場合は、とにかく公演数が多いので、主任コーチも現場でどんどん弾かなくちゃいけない。オーケストラの中での鍵盤楽器も引き受けなくちゃいけないし、ミュージカルの本番には必ずキーボード奏者が必要になるし。この辺もネックになりましたね。
僕にとっては最初の稽古の段階で、音程とリズム・・・特にこういう現代オペラでは・・・をしっかりたたき込むのが大事だから、その時点で音楽性とか発音とか、デュナーミクとかそう言う部分を要求されると、結局中途半端な出来になるのがすごく困るので、その辺はディスカッションでもいいました。今の主任コーチのトーマス・ヴィックラインはあらゆる意味で素晴らしいんだけど、彼は来シーズンから常任指揮者に復帰するのでもうコーチは出来ない。トーマスの前の主任コーチが、まぁとにかくひどくて僕はかなりひどい目にあったので、その辺のことを具体的に引き合いに出して伝えておきました。
個人稽古の最初の方で色気を出して、「大体音がとれてるからソプラノも呼んで二重唱をやろう」とかそういう風に、稽古で楽しみを持とうとするとダメなんですよ。適当な状態で「楽しいからみんなで歌おう」みたいなのはね。あげくにコーチは芸術的判断をする立場ではないのに、歌手の歌い方をやたらいじって、でも指揮者の稽古でやっぱりもどって・・・みたいなのは単なる消耗で意味がない。そう言うことをトーマスの前任者が多くやっていたので、当時はかなり困ったし、場合によっては黙っているわけにも行かないこともあったし。
次期コーチが内容の濃い仕事をしてくれることを願ってます。
デュオ・リサイタルの曲の解説も書こうと思って、まだやってませんね・・・。すいません。ドン・カルロスのアリアはフランス語でやります。フランス語を日本で歌うのは久しぶりだな。フランス語って声楽技術とのかねあいが難しいですね。字幕の原稿をつくっているので結構緻密に訳す必要があるんだけど、このポーザ侯爵のアリアは、元のフランス語の方がずっと詩的で素敵です。イタリア語の歌詞は、やっぱりそこから訳して音符の数に詰め込んでいるからか即物的でロマンがないですね。フランス語の言葉そのもののキャラクターもあるのかも知れないけど。
お疲れ様です。
2月までいたOpernschuleでも何度かKorreのVorspielに助演として立ち会った覚えがあります。
弾けなければいけないのは勿論だが、それ以外はどのような点を留意して選ぶのか、Studienleiterと(Vorspielの時間とは別に)話をしましたっけ。
あと、ナクソス、無事に終了しました。
二期会デビューでMusiklehrerをやらせて貰えるという事で緊張もしましたが、共演者やマエストロに助けられ、いい形で終える事ができました。潤さんのハルレキン、安井さんのツェルビネッタ、小林さんの作曲家…ソロだけでなくアンサンブルも素晴らしかったです。
>Sachsさん
「ナクソス島のアリアドネ」の本番、お疲れ様でした!そうか、これが二期会デビューなんですね。なんだかもうたくさん出てらっしゃるような気がしていました・・・。
ネットで少し評判を見ましたけど、素晴らしい公演だったみたいですね。おめでとうございます。これはやっぱり実は難しい演目で、きちんとやっただけでもダメだし、ある意味で冒険だと思うんだけど、これが「挑戦」という域を超えたんじゃないか、という感じがもてるのはやはり二期会のレベルが着実に上がっているという事じゃないでしょうか。
なるほど、コレペティのオーディションがあったわけですね。その上司に当たるStudienleiterがしっかりしたビジョンを持っていれば安心ですけど、Studienleiterのオーディションとなると、これが一つの管理職でもあるだけに微妙な部分があります。うちではまさにここが一つの争点になりました。日本ではこの分野は今ひとつ未発達という感じがしますね。