日本に来て、少し今回は芝居を見よう!と思って、劇団新感線の「五右衛門ロック」に続いて、今度はシアターコクーンの「道元の冒険」を見てきました。蜷川さんの演出する舞台を生で見るのは初めてです。
阿部寛さんや北村有起哉さんなどが出演しています。
表題役の道元は阿部寛さん。この方、たしかモデル出身だと思うんだけど、今は結構お芝居をされていますよね。
開演前に少し下勉強をしておこうと、プログラムをめくっていたのですが、色々と仏教用語の解説がありました。これらの仏教用語が、場面場面のタイトルになっていたりもして、それが上演中にその言葉が電光掲示板みたいなところにでていました。読んでおいて良かったかも。いきなりだったら理解しにくかったかも知れない。
脚本は井上ひさしさんによるものですが、既に上演されたものに今回手を入れての上演だそうです。井上ひさしさんの書いておられた文を読んでおいたら、時代背景が少しわかったので、これも読んでおいて良かったです。キャストのインタビューも少し読んだんだけど、みんな異口同音に「早がわりが大変だった」と言っておられました。一人の役者が何人ものキャラクターを演じ分けるんですが、これは確かに大変だったと思う。道元の高弟の役を演じた木場勝己さんが一番多くの役を演じたようですが、ちょっと引っ込んでは比叡山の僧兵になったり、現代の場面では精神鑑定医になったり。この早替わりをギャグに使ってしまうような場面もあり・・・例えば道元が、自分の弟子役の役者が他の役を演じていると「○○はどこへ行ったんだ?」と問うと、その人が「探して参ります!」ってなノリで袖に駆け込んで弟子に戻って出てくると「今度は××がいないぞ」ってな感じでまた別の役に戻らなくちゃいけなかったり・・・こういう構成のうまさ、さすがだなと思いました。
蜷川さんの舞台、初めて見て、やっぱりさすがだ、すごいと思いました。僕が見たのは今まで映像化されているものだけで、ハムレットとかオイディプスとかそんなんですけど、舞台の派手さと構成の確かさという点で妥協がなく、抜群のインパクトでした。僕が時々、舞台人として「千の眼を持たねば」ということを言っているのは実はもともとは蜷川さんがどこかで言っていた言葉だったりするのですが、この公演プログラムでも「虫の目と鳥の目を持たないとこういう芝居は出来ない」という事を書いていました。それを本当に実践されている方だと思います。
歌がすごく沢山ある舞台でした。みんな個性的な歌、声を聞かせてくださっていたけど、印象に残ったのは池谷のぶえさんの声のインパクト。この方の芝居は香取慎吾さんが主演していた三谷さんの「HR」で大変楽しみましたが、舞台でもインパクトありました。歌声だけじゃなくてね。HRでパジャマ姿でホウキを振り回していた姿は忘れられません。あと、僕は北村有起哉さんも大好きです。この舞台でもとっても良かったです。
舞台の演出というか構成の上で少なからずがっかりしたのはラストの演出。話がわからない人にはわかりにくいかも知れないけど、ちょっと書いてみると・・・
この話は、曹洞宗の開祖で鎌倉時代の禅僧である道元と彼を取り巻く人たちのお話。ひたすら座禅に打ち込むことで悟りを開こうとする曹洞宗は、浄土真宗の念仏やお題目の日蓮宗とならぶ新仏教運動を繰り広げた方です。プログラムによると当時の記録で3000万人の人口のうち三分の一にあたる一千万人が亡くなった飢饉のなか、既存の宗教で救われないと考えた民衆が多くこれらの運動にくわわり、比叡山や幕府、朝廷からの圧迫を受けます。26歳で宋の国で悟りを開いたはずの道元は自分を取り巻く状況に動揺し、毎晩同じ夢を見る。その夢の内容が現代で道元は連続婦女暴行罪で留置所に入れられているとある男性。この二つの時代設定がリンクして交互に出てくるわけです。
まぁ途中のことは全部書けないんだけど、ラストシーンのこと。鎌倉時代の場面に属している道元とそのお弟子さん達がみんな、永平寺7周年の祝い事をして盛り上がっているところに、上から留置場の檻が降りてくる。精神鑑定をすませて婦女暴行罪の男性が送り込まれた警察の精神病院の場面と言うことだと思います。「つまりこれはすべて精神病院の中で起こったことだったんだ」みたいな事だと思う。
僕、こういうのあまり好きになれないんです。ベルリンとかでこういうオペラの演出を腐るほど見てきて辟易としたのです。色々まじめに作って演じているようにしておいて、最後に「いやこれは全て虚構でした」というようなオチをつけられてしまう感じ。まじめに舞台を追っていた気持ちをどこに向けたらいいのかわからなくなるんです。
こういうのが悪いとか正しくないとかそう言うのはちょっとわからないんだけど、一観客として最後にがっかりする舞台というのはすごく嫌ですね。そこまでの作りが良かっただけに。念のために言うけどこれは僕の個人的な意見で、全く好みの問題ですから。
ところで、僕はずっと仏教のことはきちんと勉強したいと思っていました。ドイツ人に仏教の事を尋ねられてきちんと答えられない事も恥ずかしい事だと思ったし、アントロポゾフィーとの関わりが深まってきてキリスト者共同体の活動に参加する事も多くなると、仏教との関連も知りたくなるし、大体僕らは仏教徒だし。
父が3年前に亡くなって、浄土真宗でお葬式をして、その時は浄土真宗ならではの考え方に触れる機会がありました。そしてその後もその事と日本人としての自分たちの事は少し考えていたのだけれど、やっぱりちゃんとした知識がない事には先に進めない。
シュタイナーも著作や講義で仏教に触れています。そういうものはある程度読んだんですが、やっぱり日本人なんだし、シュタイナー側じゃなくて日本側から仏教を知らなくちゃ、と思っていまして。
で、今回の芝居の中で、道元の始めた禅の思想に触れる事になり、そこで僕はアントロポゾフィーとの近さをすごく感じたんですね。ひたすら座禅をする事で悟りを開こうとするわけですが、でもそれでいて日常生活が修業の場であるという考え方・・・道元は宋にわたった後、正師(仏法を正しく身に付け心の目の開いた師)となる明浄に出会う前に、とある老典座(食事の支度をする僧)が日本の干し椎茸を探し求めているのに出会いこの考えに触れる事になりますが・・・これにまず強く引き寄せられました。僕にとっての人智学はやはり日常のなかで深められていくと思っているからです。シュタイナーが口を酸っぱくして修業に際して日常生活を放り出さないように、といっているのに、みていると見事にほっぽり出して人智学にハマっていく人がかなりいる(と僕には思える)事もあり、僕は日常の中に修業の機会を探す事に注意力をかなり向けているつもりです。
幸い(?)芸術に関わった仕事をしている事もあるからか、「これは修業だな」と思える機会がわんさとあって、それを現実生活のペースを外れないようにしながら実践していく事に力を向けている、という感じになりますが。
それで、この芝居を観た後に本屋に直行しました。思い立ったが吉日、という事で。後でネットで探したりするのも良いけど、せっかく日本にいて本屋で本を手に取って選べるのだから本屋に行こうと思ったのもあります。それで、道元の本を探しました。それで買ったのが写真の本です。さっそく読み始めています。前述の老典座とのエピソードは井上脚本の中でも使われているのですが、この本の中でこの辺りの下りで、「象牙の塔」という言葉が出てきます。僕は知らなかったのだけど、もともと聖母マリアの別称のこの言葉は、「学者などが現実社会と没交渉で研修室などに立てこもって学問をする」事を言うそうですね。
ここのところ、時間がない中でも自分に本を読む時間をとる事を半ば強制しているのですが、そのおかげでやっと読み切る事が出来たミヒャエル・エンデの「はてしない物語」の幼心の君がいるのがエルフェンバイン塔、つまり象牙の塔ですよね。だからどうという事ではないけれど、シュタイナーの著作に仏教に関する記述があり、仏教の本にこういったヨーロッパ概念の記述がある事自体が何だか嬉しいし、そしてそれが敬愛するミヒャエル・エンデの著作と接点があるような気がするのも何だか嬉しい感じでした。はい。
北村有起哉さん、僕はこの役者さんが大好きなんだけど、この方が現代の場面で警察官に扮した時、上がってきた照明が顔を見極めるのに十分でない時点で、僕は「あ、この警官は北村さんだ」と直感的に確信しました。なんでだろう?と考えたら、とあるミュージカルで彼は警官の役を演じていたんですな。この前のエントリーに出て来たミュージカルだけど。この方のパンクロック、最高でした。
さてさて、デュオ・リサイタルの準備、進んでおります。ピアニストの服部容子さんがいつもの準備段階とは別人のようであります。「水を得た魚のよう」と書くと差し障りがあるかも知れないけど、今までの3回はやはり彼女にとっては新しい分野へ踏み込んでいく作業の度合いが強かったでしょう。今回は最初からエンジン全開です。
楽しみにしていて下さいね〜。
『道元の冒険』ご覧になったんですね!
私も見ました。おもしろかった&楽しかったです。あまり深く考えない一静庵(^^; テンダーイ、テンダーイ
>一静庵さん
こんにちは!お久しぶりです。
いや、もちろん面白かったんです。ああ書くとネガティブにみた面が強調されますよね。楽しかったし。歌も色々あって良かったですよね〜。
ラストの処理はでも、結構大事と思うからああ書いちゃったかも知れない。でも楽しくて面白くて良い舞台であった事は間違いないです。良く稽古されていて、すごくプロフェッショナルでした。笑いに命を懸けるのって実は大変な事です。もちろんシリアスな部分も沢山あったけど。
泣かせるより笑わせる方がずっとずっと難しいんですよね。
また蜷川作品、みたいです。